どんよりとした天気が一週間ほど続いた。
重い雲と雨は蒸し暑さと共に、ひまわりにいる子どもたちの楽しみを半分ほど奪っていた。
きりゅうかずまとにしきやまあきら。
その二人も、外で遊ぶのが何より好きな年頃の少年であった。
もっと小さい頃は雨の中に駆け出し、遊び回るのも楽しかったが、服をどろんこにして園長先生に起こられたり、足を滑らせて擦り傷をたくさん作ったりするうちに、雨は楽しみを増やすものではなく楽しみを減らすものだと次第に理解していった。
室内でもできる遊びはあるが、こう何日も続いてしまうと飽きが来る。かずまくんとあきらくんはとっくのとうに鬼ごっこをやめ縁側に座ってただ外を眺めていた。
「かずま、明日は晴れるらしいぜ」
「本当?」
「うん。 先生がニュース見てたの聞いた」
「そっか。 じゃあ明日はサッカーできるかな」
「ばっかだなぁかずま。 明日はまだ地面がどろんこでサッカーはできねえよ」
「む……」
「じゃあ、泥団子つくって遊ぼうぜ」
「えー」
「ゆみにどっちがきれいに作れたか選んでもらうんだ」
「それなら負けないな」
「なんでだよ」
ケラケラと雨の中に二人の可愛らしい笑い声が響き、ひまわりの中を少しだけ明るくした。
次の日。
天気予報はあたった。一週間ぶりのピーカン照りに、子供たちは朝早くから布団を自分で畳み、お外に飛び出していた。
あきらくんの言ったとおり、サッカーをするにはまだ土の硬さが足りないかもしれない。多くの子どもたちは長靴を履いて外に出ていた。なにより一番忙しそうにしていたのはひまわりの先生方だった。このチャンスに洗濯物や空気の入れ替えをしておかなければと、気合いが入っている。
さて、昨日あんなことを話していたかずまくんとあきらくんだったが、二人はまだ外に出ていなかった。
「かずま、ごめん。 優子がぐずっちゃって。後から行くから先に遊んでろよ」
「え。 大丈夫なのか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。 ちょっとおなかが痛いだけだからさ」
な? 大丈夫だよな? どうしたんだよ、お兄ちゃんここにいるぞ? と、あきらくんが泣きじゃくる優子を抱きとめてあやしている。
ゆうこちゃんは昔からからだが弱くて、ひまわりと病院を行ったり来たりしていた。あきらはひまわりにゆうこちゃんがいるとき、おれに見せないような大人っぽい顔でゆうこちゃんをたくさん甘やかす。
せっかくの晴れだけど、あきらと外に出られないなら、どうしようかな……。
かずまくんがそう思っていると、突然わんぱくな男の子たちが飛び出し、廊下に佇むかずまくんにぶつかるとそのまま玄関の方へ走り抜けていった。
「あぶないっ!」
ガシャーン!と、どこかきれいな音をたててかずまくんの背後にあったテーブル、その上に乗っていた花瓶が落ちて割れた。体当たりをされ、よろめいたかずまくんがぶつかってしまったのだ。
「あ……」
謝れよ!!と叫ぼうとしたが、走り去った男の子たちはぶつかった自覚がないのだろう、既にさんさんと降り注ぐ太陽の光の方へ行ってしまっていた。
「おい、だいじょうぶか、かずま」
「う、うん」
ゆうこちゃんをあやし続けているあきらくんと、当人のかずまくんだけが、その一部始終を見ていた。
おこられ、たくない。
かずまくんの頭に浮かんだのは、そんな言葉だった。
だってわざとぶつかった訳じゃないし、ぶつかってきたのはあいつらだし。
再び廊下の向こうを睨みつけるが、走り去っていった彼らはもう見えない。
かずまくんが、どうしようかと思っているときだった。
「かずま、花瓶は危ないからさわるなよ。 ちょっとゆうこを頼む」
「えっ」
あきらくんはかずまくんにゆうこちゃんを預けると、そのまますぐに先生を呼び連れてきた。
「先生、おれがゆうこをあやしてるうちにテーブルにぶつかって花瓶を落としちゃったんだ。ごめんなさい」
一番驚いたのはかずまくんだった。
たしかにおれのせいではないけど、あきらは見ていただけで、ぶつかったのはおれだ。
あきらはなんでそんなことを言ったんだろう。
それは危ない、と急いでワレモノを片付け始めた先生に、萎れたように「ごめんなさい……」と繰り返しながら、あきらがこちらを見てシーッ、と人差し指を口に当てた。
そのいたずら顔がいつもの自分といっしょにゆみに悪だくみを仕掛けるときの表情ではない気がして、かずまくんは何故か赤面してしまった。
(まったく。 かずまはオレがいないとだめだな!)
あとで、そう言われるんだろうな。
ゆうこちゃんはかずまくんの腕の中で、いつの間にか泣きやんでいた。