twitterにてタイトル・カプをご指定いただくリクエストを募りました。2019/09/07にいづるさまへ贈りましたSSです。
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 俺が格別ねぼすけという訳でもないと思うんだけど。

 冴島の兄貴が起きるのが早いから。ふと目を覚ましたときには、まるで俺は一人で寝ていたかのようで、ごろん、と無意味に広い方へ寝返りを打ってはとっくに消えたぬくもりを探してみたりする。

「馬場ちゃん、おはようさん」
「……兄貴。……今日お休みだったんですね」

 てっきり外出したと思っていた冴島が、音も立てずにドアの向こうから現れた。――シーツにすりすりしているところを、見られただろうか。
 冴島は少し困った顔で馬場に近づくと、その耳に近づいて「おはようさん」ともう一度囁いた。

「挨拶返せへんわるい子はどこや……?」

 馬場の腰を抱えて、ぐわん、と冴島が持ち上げる。慌てふためく馬場を笑いながら、そのままリビングへ歩き出した。

「わっ、ちょっ、ドアのサイズわかってますか!?当たるっ」
「わかっとるわ」
「……ん。いい匂い」

 リビングから香ばしいパンの匂いがする。……兄貴がつくったのだろうか。

「馬場ちゃん。あいさつは」
「……おはようございます。兄貴」

 淹れたてのコーヒーが、二人の鼻腔をくすぐった。





 その日は朝から特別なことばかりだったけど、おひるには昼食を食べ終えた冴島の兄貴がうつらうつらと微睡みはじめた。
 朝は冴島が先に起きてしまうし、夜はその胸に顔を押しつけてすぐに寝込んでしまうから、正直に言って兄貴の寝顔はとても珍しい。起こしたくなくって、ただ見つめていた。
 寝ている兄貴は、やっぱり虎みたいだ。こんな虎がいたら、僕は動物園に毎日通って、ガラスの窓やフェンスに張り付いて、動かなくなってしまうだろう。
……それとも、俺も別の動物で、フェンス越しに遠くから見守るのだろうか。

 冴島が毎朝、馬場の寝顔を見守っているとはいさ知らず、馬場もまた日が傾いて急いで洗濯物を取り込むまで、大きな虎の観察を続けていた。


 よくある、特別な一日のできごと。