twitterにてタイトル・お相手をご指定いただくリクエストを募りました。2019/09/21にハムさまへ贈りましたSSです。
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「私のこと、いったいなんだと思ってるんですか」

 デートかどうかもわからない、峯さんと二人きりで出かけた二回目の食事のとき。峯さんは綺麗に魚を食べ終えたあと、ナプキンで口を拭きながらそう言った。
 やけにザラついた、焦りの一切含まない口調だといつも思っていた。近づけば近づくほどに、そう。

「何というのは……」

 急速に成長しているベンチャー企業の、社長。
 いいモノを知っている人。
 いいモノを見て、いいモノを聴き、いいモノを食べる人。
 成金。
 いつも女に囲まれていると思っていたのに、今は女を遠ざけ男の人に囲まれている。
 ――ヤクザの、会長。

 何というのは、考えれば幾らでも出てくるだろう。人の子だし、大人だ。しかし……峯さんが聞いているのはそういうことじゃないのだろうか。直感がそう伝えている。

「……いえ。特に思い当たらないならそれでいいですが」

 思い当たらない訳も、ない。

「私のことを世間知らずのボンボンだと思っているのなら、そう言ってほしいなと思いましてね」

 憎しみも、嘲りも感じぬ、粗めに漉いた紙のような手触りの男だ。

「まさかそんな。」

 笑って不意に手を口元に近づけたとき。右手がテーブルの上に並べられたうちの一つのフォークを引っ掛けて落とした。毛足の長い絨毯に吸われて、カラン、ともならなかったけど。

 思わず「あっ」と小さく口に出し、手を伸ばして拾い上げる。ざっくりと開いたドレスの胸元が、不安そうに撓んだ。
 顔を上げると、レストランのウェイターが直ぐ側まで近づいていた。

「こちらをどうぞ」

 今しがた落としたばかりのフォークと同じものを受け取る。――いいレストランは気配りも流石、細かくて素早いな。

 そんな所感を抱きながら峯さんを見ると。
 今までに見たことのない鋭い眼光をしていて、真っ白な紙にぼたっとインクが落とされたような。……そんな、驚きがあった。

「大丈夫ですか」

 また、抑揚もなく、しかし眼を一切逸らさずに問うてくる。

「だ、大丈夫です。失礼しました」
「……いえ」

 背伸びをしているのを、勘づかれたかもしれない。
 でも、果たして峯さんの隣で、背伸びをしない女性なんているのだろうか。……毎度、次はないだろうと思いながら車を降りる羽目にあう。

 このドレスもヒールも、明日には親友の元へ返っているのだ。
 痛みだした踵の傷と、今日のことを思い出せればいいだろう。

「すみません。……明日は何かご予定は」

 興味を失くしたかのように目を伏せながら、峯さんは確かにそう言った。




 §




 取り繕う嘘は、ほぼ全てがくだらないと思っている。――しかしその動きで、貴女が「俺」と同じだと判ってしまった。

 ……可笑しいですね。
 そういうときは、ただ、ウェイターを見ればいいんですよ。

 貴女の煌めきは上辺からではなくて、その落ちたフォークを拾い上げる、中の方から光っているのですね。





 ダイヤモンドのように輝いて