twitterにてタイトル・カプをご指定いただくリクエストを募りました。2019/09/23にライさまへ贈りましたSSです。
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「あほ……! 何ボーッとしとんねん!」

 傾き始めた日が建物の窓に反射して、人の目をギラギラと射抜き始めた頃。つい先程西谷に捕まった真島の、悲鳴にも似た怒号が路地裏に響いた。
 何がきっかけだったかイチャモンをつけられて、西谷の喧嘩を買ったはいいが。スッ、とわかりやすく突き出したドスに、何故か西谷が避けずにぐさりと刺さった。……強いと思っていた相手の肉を断つ感触が、変に深く、真島を焦らせる。

「ぅ……痛あ……」

 刺しどころが悪かったのか、惚けたままの西谷がずる、と膝をついた。

「お前、調子悪いならそう言えや!」
「調子悪いわけあるかい……絶好調や」

 痛いのか痛くないのか、西谷は呻いたまま、へらへらと笑い出す。

「真島くんにもわけてあげたいなあ」

 は、と、問うよりも前に、ヒヤリとした感触。次いで、激しい痛みと熱が腹を切り裂いた。

「ぐ……お前……」

 自分の腹の西谷のと同じところに、ドスが刺さっていた。……が、深さは西谷ほどではなかった。

「はは……やっぱおかしいわ……」

 やっと諦めがついたのか、刺さったドスはそのままに、西谷はごろん、と横になり天を仰いだ。ドクドクと熱い腹から、真島だけ、自力でドスを抜く。だば、と血が服を濡らしていく。

「なあ、真島くん。ワシ、真島くんに殺されるんも、真島くん殺すんも、本望やと思っとったんや」
「なに……言うてんのや……西谷、お前今日ほんまおかしいで」

 ギリギリと痛む傷は、しかし西谷の方が痛いはずなのに。横になってからは遠い目でただ空を見つめている。

「なのになあ……喧嘩したいワシと、喧嘩したないわしがおんねん。これは、病気なんやろかぁ」

 西谷の喧嘩への執念は、もうそれだけが彼であると言わんばかりであったのに。

「真島くんなあ。絶対殺したないねん」
「……」
「真島くんとおると初めてばっかりやなあ」

 しみじみと言い放った西谷は、やはりあの時、喧嘩の最中に考えごとをしていたのだろう。

「感染するらしいなあ」
「……ハ?」

 カラカラと笑い出す西谷の吐息に、苦しそうな色が滲む。ひゅーひゅーと、人間の中の空洞の音がした。

「まじまくん、ワシ刺したとき一瞬引いたやろ」

 つい先程の、あの、肉を断つ感触。グサリと刃物が深く刺さった瞬間。……確かに。こわかった。


「日和る病気なんて危なあてしゃーないな。当分会わんとくわ……」

 この男の、どこまでかわからぬ口八丁に、逃げていた喧嘩が無くなるという寂しさよりも、西谷は西谷らしくいて欲しいな、という悲しみが肚に堕ちた。

「ええから。もう病気行くで」

 下手に動かすと内臓がさらに傷つく。救急車を呼ぶほかなさそうであった。

「えぇっ……! 真島くん、これ治す病院知っとんの!」
「ちゃう。刺し傷や、あほんだら」

 それを……否。これを治す病院なんて。俺かて教えてほしいくらいや。