twitterにてタイトル・カプをご指定いただくリクエストを募りました。2019/09/29にてんろうさまへ贈りましたSSです。
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 騒がしい神室町の夜。俺は一人の女の子の肩を抱いていた。気分が高揚しているのは、きっとこれから向かう先に思い当たりがあるからだろう。と、不意に、見知った声に呼び止められる。
――城戸、
――兄貴……おつかれさまです、
 急いで肩から手を下げ、膝についた。隣の女の子は、少しだけフラ、と傾いた。
――その子は。
 途端に隣の女の子が駆けだす。
――っていいます。あの、……。
 妙にはしゃいだ女の子と新井の兄貴が、しばらく話し込んだ後に肩を組んで歩き出す。俺はポカン、と、その場に立ち尽くして、悔しさなのか、悲しさなのか。見上げる首が痛い。



――と、いうところで。目が覚めた。

 見慣れた自分の部屋で、窓から差し込む光はすっかり日が高く昇ったことを教えてくれている。リアルではないが、絶対にないとも言い切れない夢に、城戸は汗をかいていた。はーっ、と、一度深い溜め息をつく。
 はいはい夢ね、と片づけられるのは夢の中の女性に心当たりが無かったからだ。もう姿形も忘れたが、あんな娘見たことがない。

 不意に城戸の隣で、何かが息をした。ぎょっとしてそちらを向くと、見知らぬ女が裸で寝ている。

「はああッ!?」

 自分の部屋だ。自分のベッドだ。しかし自分も上半身は何も着ておらず、下半身は無闇にはだけていた。

「ちょっ、ちょっ……ちょっと待って……」

 誰に言うでもなく、ベッドに向かって弁明した。と、その声で"彼女"が目を覚ました。もぞもぞと身動いで、こちらを見たかと思うと、己が何も纏っていないことに赤面した。……かわいい。

「お、おはようございます、城戸さん」

 城戸さん。……名前を知られている。
 ぐるぐると、考えうる最高のパターンと最悪のパターンを考えた。……が、最高のパターンなんて「兄貴が俺の誕生日に彼女にできる高性能アンドロイドを買った」くらいしか思いつかなかった。なんてお粗末。しかも、俺の誕生日は四ヶ月も前だ。もう最悪のケースしか思い浮かばない。誤魔化せるか……?いや、名前すら覚えていない娘だぞ?

「あれ……? 城戸さん?」

 そう聞くや否や。As soon as。俺はベッドから降りて額を地面につけた。昨晩着けていたベルトが、カシャカシャンと浮ついた音を立てて落ちた。

「申し訳ないッ! ……何も覚えてないです」

 勢いよく謝ったにしては、文末がやけに失速してくぐもった。口に出してみるとその悪質さに打ちのめされてしまいそうだ。この娘が美人局でこの後ヤクザが突入してくるパターンを考え、身体にグッと力を込める。

「……はあ。そりゃそうですよ」

 やっぱり駄目かぁ、と彼女は間の抜けた声で続けた。

「城戸さん、昨日ベロベロに酔ってチンピラに絡まれてる私のこと助けたんです」

 ぐるぐると昨日の記憶を必死に掘り起こす。たしかに飲んでいた。独りで深酒をしてしまったのは事実だ。しかし誰かを助けた憶えはなかった。身体も何処も痛くない。

「私、御礼がしたいって言ってるのに城戸さん全然話聞いてくれなくて……帰りなさい、着いてくるなの一点張りで……」
「え」

 じゃあ何で此処に。

「城戸さんふらふらだし危なっかしかったので、着けてきちゃいました」
「……はあ?」

 流石に面を上げた。流石に。

「……え? てことは俺が君を連れ込んだとかではないの?」
「連れ込んでほしかったんです! 私は!」
「はあ?」

 さっきからなんとなく気づいてたけど、なんか俺、変な子拾った?

「家に入ったら城戸さん私のこと放っといてベッドで寝ちゃうんですもん。酷いです」
「……ちょっと待って、俺の名前は」
「手紙入ってましたよ。玄関に」
「……君、なんで裸なの」

 ていうか、俺も何で半裸なの。

「そ、それは……その……城戸さん……」

 シーツで身体を隠して、照れながら続ける。
……見た目は、タイプではあるんだな。

「こうしたら手を出してくれるかなって……思ったのに!!」
「いや、キレられましても!」

 俺は何もわるくなかった……!ただチンピラに絡まれてる女の子を助けてお家に帰りなさいと説いただけだった……!よかった!
 普段の善良な行いを改めて見直した。これからもなるべく正しい人間であろう。

「とりあえず、服着て。申し訳ないけど、送るから」

 出逢い方が出逢い方なら、また違った付き合いができたのかもしれない。ちょっと気が強めだけど。

「いやです……城戸さん……責任とってくださいよ」
「だから……責任も何も、俺は君を助けただけでしょ? 何もしてないのにどうやって責任取れっていうのよ」

 彼女はキッとこちらを睨めつけた。

「何もしてなくないんです。キスされました」
「……え? それも……嘘でしょ?」
「嘘じゃないです! 責任取ってください!」

 ギャーッ!と叫びながら、全裸の彼女がベッド下の僕に降ってきた。


 君が降ってきた日。俺が変な猫を拾った日。