※死ネタです。
※龍が如く7のネタバレを含みます。






ちらと鉢植えの球根を見て、その双葉が土から顔を出したことを確認した。異人町、サバイバーはマスターが留守らしく、ドアには鍵が掛かっている。春日は合鍵を取り出すと所作の無駄なくそれを開けた。

彼がバーに入ると、既に白スーツの男がカウンターに腰掛けている。他に人は見当たらない。そちらを見るでもなく、春日がやや離してカウンターに着く。座る。お店の中は無音で沈んでいた。


錦山「お悔やみ申し上げます」
春日「……どうも」
錦山「あら。否定しねえの。」
春日「事実だもんでね」

錦山が手元のウイスキーを呷って鼻で笑った。

錦山「そりゃそうだろうなあ。お前の身体から死の匂いがぷんぷんする」
春日「……」
錦山「すっかりオフか? お仲間の前では無理しちゃって」
春日「……うるせえな」

二人の声は似ているが、それは私たちが思うことであって本人たちには知らぬところである。

春日「大事な人が居なくなったんだ。普通でやってられっかよ」
錦山「ハッ。クソ男の兄弟はつれえな」
春日「おい。若をアンタと一緒にすんな。若は自害したんじゃねえ。殺されたんだ。……申し訳ないけどよ、アンタのことは調べたぜ。兄弟の人生さんざん引っ掻き回して裏切って自殺するようなアホと若が一緒にされちゃ、たまったもんじゃねえよ」
錦山「ハハハッ。……一緒じゃねえかよ」
春日「一緒じゃねえよ!」
錦山「……何が一緒じゃねーんだよ。言ってみろよ」
春日「てめえ……」
錦山「あーあー……なんだよ、幸せになんなぁ、坊っちゃんよぉ」

下卑た自分の店に小学生が来たとき、カウンターのオカマはこうするのかもしれないといった落ち着かせ方だった。忠告しているのか歌っているのかわからない。それから錦山は煙草をひと吸い。春日もいつの間にかグラスを取り出し、カラカラと鏡月を傾けていた。

春日「てめえに言われなくてもッ……」
錦山「そうかあ? たまにゃ鏡見てみろ、お前……」
春日「……ああ?」
錦山「ひでえ顔してんぞ」
春日「……」
錦山「目の下の隈なんかアレだな、昔の荒川真人にそっくりだ」
春日「……アンタ何しに来たんだよ」
錦山「さあな。何しに来たんだったかな」
春日「……」

しばしの沈黙。そろそろマスターがオープンのために戻ってくる頃合いだろう。

春日「若は、そっちに、いるのか」
錦山「……おう。小笠原だっけ? アイツと一緒にいるよ」
春日「……」
錦山「荒川真澄は会ってねえなあ。……なんせ地獄で。わるいな」
春日「……そうか。……なら、俺はこうやってアンタに会えているみたいに、若に会える日が」
錦山「会いになんて来るわけねえだろ」

静かに怒鳴るように、びしゃりと錦山が言った。サバイバーの電気が一層調光を絞る。

春日「……は?」
錦山「春日、お前勘違いしてんじゃねえのか? 荒川真人はお前に会いたいなんてこれっぽっちも思ってねえよ。思い上がんのもいい加減にしろ」
春日「そんな、」
錦山「いいか? 荒川真人は――青木遼は地獄でそりゃあ楽しくやってんのよ。てめえに会いてえなんて聞いたこともねえ。お前のことなんて忘れちまってるわ」
春日「……」
錦山「お前ばっかりがズルズル引きずって、無様だなあ? とにかく会えることなんて金輪際ねーんだから、てめえは泣きながら墓参りでもしときな」
春日「……」
錦山「はー、興が削がれた。甘ちゃんなお前と喋ってっと反吐が出そうだ。……俺ぁ帰るぜ」
春日「……よく言うぜ」
錦山「あ?」

カランカラン。
ドアが鳴って、店の主が帰った。

マスター「おう、春日来てたのか。……何だ、昼間っからひとり酒か?」

ふと見ると先程まで居た筈の錦山が消えている。

春日「じゃあお前はなんで来てたんだよ」
マスター「あ?」
春日「……いや。マスター、塩ねえ? この店憑いてるかもしんねえ。撒いていいか?」
マスター「おいおい、マジで言ってんのかよ。塩ならあるぞ」

(たまにはあの男を探して会いに行ってやるか)