はっきりとは言わないで


※お題企画「戦闘不能」
※ザレイズ世界での話です



「キミって本当に弱いんだね」

突き放すような声色と共にそう見下ろされて、わたしは困ってしまって押し黙る。
強いか弱いか、という話をされると、そりゃあ、わたしは弱い。まったく戦えないわけではないし、元の世界と同様、エクスフィアを着けているのだから、それなりには戦えるはずだ。けど、強くはない。
例えば、目の前にいるミトスのように特別に強いわけでもなければ、何か他にはない強みがあるわけでもない。だから、強敵相手だったり多勢相手だとこのように。あっさりとやられて戦闘不能になるのだから、やっぱり弱い。
本当に、治癒術の使える皆さんにはいつも頭が上がらない。こうしてベッドまで運んでくれた人にも当然感謝しなければならない。
そう思いつつ、なんとなくベッドの上で正座してミトスに向き直れば、彼は嘲るように鼻を鳴らした。

「まさか、あんな雑魚相手に苦戦するどころか、戦えなくなるまで体力を消耗するなんて思わなかったよ」
「わたしもびっくりした」
「そんな能天気な返事が聞きたいわけじゃないって、わかると思うけど?」
「うん。心配かけてごめんね。お見舞いに来てくれてありがとう」

ぺこりと頭を下げれば、ミトスはしばらくの間無言でわたしを見た後、はあ、と大きくため息を吐く。
そのまま、彼にしては少々乱暴な動作でベッドのふちに腰かけて、それで怪我はどうなの、と問われたので、もうほとんど平気だよと、その背中に笑いかけた。

「そんなに思いつめなくても、もう怪我も治ったし元気だよ」
「そういう話をしてるわけじゃない」
「はいはい。今後は無理をしません、仲間と行動します、何かあれば必ず声をかけます。あと他の望みは?」
「しぶしぶ子供のわがままを聞いてあげるみたいな態度やめてくれる?」
「違うよ。心配かけちゃったな〜って気まずくなってるの」

その結果がこの可愛げのない態度なのは、確かに申し訳ないと思うけれど。でも、わたしだって、迷惑かけちゃったなあと落ち込んでいるし、きっとわたしが戦闘不能になったこと聞いて飛んできてくれたのだろうことに申し訳なさだって感じている。
なので、気まずいなあと思って。このように可愛くない返事をしてしまうことを許してほしい、とは、さすがに言わないけれど。そのまま彼の様子をうかがっていれば、ミトスは再び大きなため息を吐いて、わたしにもたれかかるように倒れこんできた。
そのままもぞりとわたしから顔を隠すようにわたしの肩に顔をうずめて、ぼそりとつぶやく。

「わかりにくい」
「そうかも」

ごめんね、と頭を撫でれば、それ以上何も言わない。言葉もない。
好きな人に心配かけないように、もっとちゃんと、強くなろう。
そう心に決めながら、彼の手をそうっと握った。





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