両手いっぱいに抱っこして


※アニバーサリーでミトスぬい販売するかって公式に思わせるほどに彼を応援し続けてくれた全国のミトスファンの同志のみんな本当にありがとう。ぬい、届きました。最高です



「つ……ついに……完成してしまった……」

手元に届いたそれを見て、わたしは思わず声を震わせる。ううん、声だけじゃない。体もわずかに震えているのがわかって、自分がどれほどこの瞬間を待ちわびていたのかを改めて実感した。
長い。長かった。ここまで来るの、結構な時間がかかった。ディストさんとそれはもう何時間も話し合って出来上がったそれを抱き上げて、わたしはおお、と声を零した。

「ミトスくんの、おっきいぬいぐるみ……!」

そう。今わたしの手の中にあるのは、ミトスくんのぬいぐるみだ。
どうしても。他のみんながお祭りだとかイベントだとかでいろんなものを集めているのを見ていたら、どうしても! ほしくてたまらなくて、ディストさんに頼んで作ってしまった、この世にたった一つのぬいぐるみである。
大きさはそこそこに大きい。抱っこするのにちょうどいいというか、抱っこしたら腕にフィットする感じを目指したので、結果的に大きくなった。だからもちろん、肌触りの良い生地を使っているし、中に詰めた綿もふかふわかだ。抱き心地、合格。
顔も可愛くデフォルメできるように必死に調整した甲斐があって非常に可愛い。これがまたバランスが難しいし、人形作りには自信があると言っていたディストさんもなんともいえないセンスの持ち主だったから、すごく大変だったな。
ああ、でも、頑張っただけあって、完璧。満足。これはもう素晴らしい出来だ。途中で物騒な機能をつけようとするディストさんとひたすらに話し合ったおかげでちゃんとただのぬいぐるみだし。ああ、嬉しい。あとでお礼の品を持って行かなくては。

「こういう場面に出くわした時って、どう反応するのが正しいんだろうね」
「そりゃあ、見て見ぬふりを……、っ……!?」

あまりの喜びにぎゅうぎゅうと抱きしめていると、聞き覚えのある声がして慌てて後ろを振り返る。
どうしてこういう時って、タイミング悪く本人に出会ってしまうのだろう。すぐ後ろで呆れた顔をしているのはミトスくんだ。正真正銘、本物の。

「最近何かこそこそしてると思えば……」
「え、えへへ……」

気まずい。本人を目の前に、あなたのぬいぐるみを作りましたとか、そのぬいぐるみをぎゅうぎゅう抱きしめてましたとか、気まずいどころじゃない。笑ってごまかそうとしてみたけれど、非常に無理がある。
でも謝るのはちょっと違うし、どうしよう、と冷や汗を流していると、ミトスくんは呆れた顔のまま、むんず、とミトスくんのぬいぐるみの頭を掴んだ。
気になるのはわかるけど、もう少し丁寧に扱ってほしい。そう素直に言えば、彼は渋々と言った様子で優しくぬいぐるみを手に取ったので、素直に彼に渡した。
腕をぴこぴこ。ひっくり返して足をぴこぴこ。細部までこだわった、ある程度なら動かせる手足をいじりながら、無駄に凝ってる、と呟く。

「ふーん。こういうのが好きなんだ。変わってるね。本物にだってそんなにデレデレした顔しないのに」
「可愛くなるようにしっかり監修したからね。本物はあんまり構うと逃げちゃうし」
「……逃げてはいないよ」
「じゃあ照れてるんだ」

だんまり。
ずいぶんと口が悪くなってしまったことを自覚しているらしい彼は、そういう言葉が出てきそうな時、こうして無言になることが多い。たぶん、元の世界でいろいろとあったせいか、マーテルさん相手ほど素直になりきれないけれど、素直じゃない言葉を言いたくないと思ってくれているのだと思う。つまり、今の彼に出来るせいいっぱいの素直な態度、というやつなのだろう。
たしかに、初めて出会った時と比べたら、いろんなところが変わってしまった。でも、こういう優しいところはずっと変わらない。
嬉しくなってにこにこと笑っていれば、わたしの考えていることなんてお見通しなのだろう。少し気まずそうに、ぺち、とぬいぐるみの手を動かして、わたしの二の腕を叩いてきた。当然痛くない。というか、可愛い。さらに頬が緩んでしまう。

「……しまりのない顔」
「今両手にミトスくん状態だからね」
「なにそれ」

ふ、と噴き出してから、くしゃりと笑う。
わたしが欲しいだけのぬいぐるみだったけれど、こうして好きな人で視界がいっぱいになれるんだったら、やっぱり作ってよかったなあって。
ぬいぐるみ製作者のディストさんに贈るお礼の品の候補を豪華にしながら、わたしはぬいぐるみごとミトスくんを抱きしめた。





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