あなたの手を取り夢の中


※サイト開設記念日のお題くれくれでいただいたお題「レイズ軸、ミトスとアルタミラに行くハッピーな話」
※本編のデート編を見ていただくとわかりやすい……かも!



「ね、デートしようよ」

ミトスくんがそんなことを言ったのは、突然のことだった。
それまで何か、甘い空気があったわけでもない。二人きりではあったけれど、会話の内容はこのティルナノーグに来て出来た友達のこととか、今後の身の振り方とか、そんな話だ。そもそもお付き合いをしてるわけでもない。
だからそんな誘いが彼の口から出てくるなんて思わなくて、びっくりして。ちょっと、ううん、すごく、嬉しくって。
……ぜひ、って。二つ返事でうなずいて彼の手を取ったのは、もう、仕方のないことだ。

「こっちのアルタミラも賑やかだね」

そうして決行されたデートの舞台は、この世界に具現化されたアルタミラだ。
他の大陸にもデートの名所はあるらしいけれど、初めてだし見知った場所からの方が変に緊張しなくていいんじゃない、なんて。気遣われるようなことを言われて、それもそうかと、すでに緊張していたわたしがうなずいたから、ここ。

実際、具現化されたアルタミラは、違う世界にあるはずなのに見知った景色が広がっていて、なんとなく安心してしまった。
一応、元の……わたしにとっての元の世界って、また別の意味を持ってしまうのでなんとも変な言い回しだけど。テセアラにあったアルタミラの遊園地と比べて、細かい遊具なんかは違うみたいだけど。それでも、前にミトスと一緒に乗ったアトラクションはそのまま存在している。

なんだか小さな頃に来たきりの遊園地に大人になってから遊びに来たみたいで、すでにわたしのテンションはマックスだ。
嬉しい。ここにまた、ミトスくんと一緒に遊びに来られるなんて。

「そうだね。相変わらず賑やかだ。……今回は宿泊券、もらえないみたいだね」
「あれ自体はもらったタイミング違う時だったし……」

誰にも呼び止められることなく遊園地内に入ったことに、ミトスくんは残念、と肩をすくめる。
その言葉に、元の世界でここに来た時はスイートルームのペア券があったもんねえ、と笑った。
わたしと他の仲間たちは、このティルナノーグで具現化されたタイミングが違う。わたしの方がいくらか遅くて、たまに会話が噛み合わない時もあったけれど。わたしにとっても大切な思い出をミトスくんがちゃんと知っていて、それを覚えてくれるというのは、とても嬉しい。

よく考えてみれば、元の世界では彼はミトスくんとは別人のミトスとしてわたしたちに接していたし、こっちに来てからも昔の話って全然してない。
こうやって前はこうで、って会話したの、もしかして初めてかもしれない。それは勿体無いような、出来て嬉しいような。どう言えばいいんだろう。
正直なところ、わたしもまだ、ミトスくんと対立しなくていい状況というのにいまいち慣れていない。嬉しいことなんだけど、嬉しいがゆえにどう振る舞えばいいのかわからないというか。
ううん、とちょっと首を傾げてしまうと、ミトスくんがふ、と息を抜くように笑った。

「いきなり百面相してどうしたのさ」
「いや……いや、思えばあの時、ミトスくんだいぶぼろが出てたな、って」

あんまり格好悪いところばかり見せるのもな、と思って誤魔化す言葉を使ったけれど、実際、前回彼と訪れた時、だいぶ“ミトス”と“ミトスくん”の境界線がなくなっていたと思う。
わたしの態度を取って、昔からとか。ずいぶんと気の抜けていた態度とか。わたしが鈍感じゃなかったら、あれ、と不思議に思って、もっと、違う未来になったかもしれない。
ミトスくんも当時の自分の反応には思うところがあるのか、ああ、と少しだけばつの悪そうな顔をした後、何も問題ないでしょ、と綺麗な笑みを浮かべてみせた。

「……肝心の本人がさっぱり気付いてなかったんだから、別にいいでしょ」
「その通りでございます……」
「ま、いいよ、そんなこと」

ほら、と手を差し伸べられる。
思わずきょとんとその手と彼の顔を見比べれば、ミトスくんは困ったように眉尻を下げた。

「ボクたち、デートしに来たんだから」

楽しいことだけ考えてよ、と。そう言われて。ああ、手を繋いでくれるのだと、そう思って。じんわり。ほかほか。あたたかくなる胸のままに、その手を取った。

あの時のデートみたいに、回るのは遊園地エリアが中心だ。
ティーカップに、メリーゴーランドに、ジェットコースター。この世界でいろんな技術に触れているからか、以前に楽しんだ時よりもっとパワーアップしたそれらで悲鳴みたいな歓声を上げながら遊んだ後、のんびりとレストランでご飯を食べてから、今度は海のエリアでばしゃばしゃと水を蹴る。
水着は持ってきていないから、深いところまではいかないけれど。靴を脱いで、素足で駆け回るだけでもずいぶんと楽しくて、ちょっと、懐かしくて。ずっとずっと昔に、こうやって水遊びをしたこともあったなあ、なんて笑っては、そう言えばあの時、と思い出話を始める。

観覧車も、美味しいご飯も、楽しい時間も、全部が嬉しかったけれど。たぶん、わたしたちが一番楽しかったのはそれだ。
楽しかったね、って。昔のことを話すこと。わざわざこんなところに来てまですることじゃないし、ささやかなことだけれど。それが、一番、嬉しかった。

「みんなのお土産、何がいいかな」
「姉さまとジーニアスたちにはこのお菓子にしようと思う。クラトスはこっちの……あ、ユアンはいいよ。適当な瓶に空気入れて帰れば」
「まーたそういう……」

どうにも雑な扱いに、思わず苦笑する。
てっきり、彼がレネゲードを率いていたからあたりが強いのだと思っていたけれど、実際にはマーテルさんをとられた腹いせであることを、こちらに来てから知った。
昔に一緒に旅をしていた頃からこうだぞ、とクラトスさんから話を聞いて、少し羨ましくなったのは内緒である。

「……キミは? 自分用とか、ないの」

どんどん増えて籠の中を埋めていくみんなへのお土産を見て、ミトスくんがどことなく緊張した面持ちで問いかけてきた。
お土産が被ることを気にしてるのかな、と思ったけれど、たぶん、言葉通りわたしを気遣ってくれているのだろう。
なんとなくその様子にほのぼのとしながら、わたしはそうだねえと店内を見回した。

「うーん、どうしようかな。結構フード系を楽しんだ気もするし……」
「食べ物じゃ残らないでしょ。お金の心配してるならボクが出すからいいよ」
「ええ? それは申し訳ないよ」
「いい。出す。出したい。ほらはやく」

なんとも頑固な様子で急かされて、どうしたの、と思わず問いかける。
ミトスくんのことをわからずやだとか頑固だとか言ったこともあるので、押しの強さは別に気にしないけれど。そこまでしてわたしのお土産を用意したい、というのは、純粋に謎だ。だって、思い出という一番大事で大きなお土産をわたしはもらっていることになるし、それがどれだけ素晴らしいもので、自分を支えてくれるものか知っているから、余計にお土産にこだわる理由もわからない。

何か、お土産を買わないといけない大きな理由でもあるのだろうか。たとえば、ミトスくんがこちらに来てからできたという友達と、何か話したとか。誰かが、わたしに何か買い与えるように言ったとか。
考えて見るけれど、そのメリットが思いつかないので、たぶん、違う。だとすると、素直にミトスくんがわたしに何か買ってあげたい、と思っているということになるけど。
それだって、このデートに誘ってもらったというだけで十分なのに。そう問いかけると、彼は少し気まずそうに視線をそらした。

「……ホテルでもらったもの。お礼、まだ、してないから」

ぼそ、と呟いて。ちゃんと大事に持ってる、と。出してきたのは、わたしがあの日、アルタミラで彼に渡したお守りだ。
大事に持っていてくれたんだ、と素直に笑顔を浮かべると、彼はさっとそれを再びしまって、当たり前でしょ、と唇を尖らせた。

「キミが、ボクのために作って、ボクにだけくれたものなんだから。……嬉しかったんだよ。本当に」
「ミトスくん……」

嬉しい、と素直に言葉が零れ落ちる。嬉しい。頑張って作ったし、気に入ってくれたら嬉しいなあって思っていたものだから。違う世界に来ても、敵対しても、大事に持っていてくれているとわかって、本当に嬉しい。
なんだかそわそわとしてしまって、ふにゃふにゃと緩んでたまらない頬がちょっと痛い。でもおとなしく、なんでもないふりをするなんてこと、わたしにはできないから。えへへ、と何度も声を零しては、忙しなく体を揺らして。それから、お返しかあ、とはにかんで、そうだ、とミトスくんの手を握った。

「あ、あのね、欲しいもの、ないわけじゃないの」
「うん」
「その、ちょっと、恥ずかしがられるかもしれないんだけど……」
「別に。いいよ。気にしないでよ、そんなこと」
「じゃあ……! こ、このストラップとか。この浮かれ切ったご当地シャツとか……君とお揃いのものがほしいなあって」

示したご当地シャツとストラップは、知らないキャラクターが書かれていたり、やたらと派手な色使いをしたもので、正直わたしにもミトスくんにも似合うとは思えない。
でも、そんな浮かれきったものだからこそ共有したいというか、お揃い、したいというか。特別、にしたくって、そう問いかけた。

「……本当に浮かれ切ったデザインだね」
「言い返せない」
「でも、うん、いいよ」

呆れた顔をしていた彼だけれど、しょうがない、とストラップの方を手に取る。さすがにシャツは嫌だったらしい。そう指摘されることすらなんだか楽しくて、笑ってしまえば、そっと。ふんわりと。
彼は、どこにでもいる子供みたいに、嬉しそうにはにかんだ。

「ボクも、お揃いが嬉しいから」





index.