君たちのぬくもりを感じていた
※サイト開設記念日のお題くれくれでいただいたお題「マーテルとミトスを思い出すしっとりとした夏の話」
※火の封印の後くらいの時間軸です。あたたかかったのは、嬉しかったのは、そういうこと
「冷たくて気持ちいいねえ」
ぱしゃりと、涼やかな水音と共に、コレットたちの楽しそうな声が聞こえてくる。
同じように川で遊んでいるはずのロイドとジーニアスは、水の掛け合いでもしているのだろうか。賑やかな声と、ばしゃばしゃと鳴りやまない水の音に、わたしとリフィルさんはそっとほほ笑んだ。
砂漠を出て、景色に緑が増えてきて。あの倒れそうなほどの暑さも和らいできたけれど、やっぱりまだまだ、暑さを感じる夜。
たぶん、季節と言う意味では今は夏なのだろう。シルヴァラントは日本ほど明確な季節の変化がなくて、地域差の方が大きいから、ちょっと忘れがちだけれど。なんとなく、普段よりは暑さを感じているからと、夜営の準備も終わったところで子供たちは近くで川遊びを始めてしまった。
さすがに服は脱がないけれど、少しだけ軽装になって、靴を脱いで。世界再生の旅、なんて重たい使命なんて忘れて、川遊び。なんとも平和で、なんとも穏やかな景色が、そこにあった。
「砂漠からは離れたのに、最近なんかあっついよな〜」
「巡礼の人から聞いたけど、基本的にシルヴァラント中で気温が上がってるんだって。温暖化だね」
「おんだん……」
「気温が上がって暖かくなりすぎてるってことだよ」
「わ、わかってるよ!」
聞こえてきた会話にリフィルさんが頭を抱えるところまで、平和、である。
今、近くにクラトスさんがいなくてよかった。何故かわからないけれど、あの人、あんまりロイドがとんちんかんなことを言うと、すごく悲しそうにするので。彼と遊びたそうにして、周囲のチェックも兼ねたお散歩に連れ出してくれたノイシュのこと、後でいっぱい構い倒そう。
「あなたが以前にいた時代と比べると、本当に気温は上がっているのかしら?」
「うーん……どうでしょう。一年も経つと、現状に適応しちゃって、どうにも」
そんなことを考えていると、リフィルさんに興味深そうな視線を向けられて苦笑する。
正直、気温の違いなんてよくわからない。日本と比べたら湿気がなくてカラッとしてて過ごしやすい、という感想は、今もはっきりと言えるけれど。マーテルさんとミトスくんがいた時代と何が違う、と問われても、言葉にできる気がしない。
あの頃も、決して毎日が過ごしやすい気温だったわけではないと思う。季節は、やっぱり地域差の方がわかりやすいけれど、ちゃんとあったし。
ただ、あの頃は右も左もわからない異世界で覚えなければいけないことがたくさんで、毎日が大変で、必死で。いろんな意味で、それどころではなかった。
……それどころじゃないくらい、毎日が大事件だったけれど。でも、だからこそ、楽しかったことも、覚えている。
「あー、でも、川遊びするくらい暑いなと思う日は昔もありましたよ。三人で全身ずぶぬれになって、冷えちゃって。逆に夜が寒くってくっついて寝てました」
「それは微笑ましいわね」
本当に、懐かしい。その日はなんとなく普段より暑いなと思って、もう夏だもんねと言われて。そっか、この世界にも季節ってあるんだ、って、確か安心した。文字も常識もいろんなことが違う場所で、元居た世界と共通する何かを見つけて、ちょっと嬉しかったのだったと思う。
それで、一人で気分が盛り上がってしまって。せっかくだし川遊びしようよ、なんて言って二人を誘っては、今ロイドたちがしているみたいに水をかけあったりして遊んだ。当然みんなびしょ濡れ。夜になったらなんだか寒くなって、慌てて三人で火を囲んで。それから、マーテルさんが風邪をひいてしまっては大変だと言って、三人で一枚の毛布をかぶりながら、ぎゅうぎゅうとくっついていた。
──とっても、あたたかいわ
いろいろとはちゃめちゃである。暑いのか寒いのかはっきりしないし、考え無しだし。でも、わたしたちはみんな笑っていたし、マーテルさんも、嬉しそうに笑っていた。
彼女の言う通り。何故だかとてもあたたかかくて、嬉しかった。
「三人ともー、そろそろあがっておいでー」
「はーい! ……っぷし!」
しんみりと思い出した記憶に、ここで子供たちが風邪ひくのは良くないなと思って、冷えちゃう前にあがっておいで、と声をかける。でももう遅かったみたいだ。盛大にくしゃみをするロイドを見て、ほらごらん、とタオルでぐしゃぐしゃと拭けば、悪い悪い、なんて反省しているとは思えない楽しそうな声が帰ってきた。
ジーニアスがリフィルさんにタオルで拭いてもらいながら、着替えた方が早そうねと服を脱がされているのを見て、コレットは間違いなくお着替えコースだな、とタオルを差し出しながらテントに入ろうと手を引く。
そうすれば、彼女は楽しかったよ、とにこにこと笑って、ぎゅ、とわたしの手を握り返した。
「どうしたの?」
「ううん。手、あったかいなあって」
川遊びしたから、あったかいのがよくわかるよ、と。なんとなく、嬉しそうにそう教えてくれたコレットに、わたしもなんだか嬉しくなって笑った。
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