半年、なんて月日はあっという間だ。
半年ぶりに会うアスベルとソフィを見て、そう思う。
ラントの外れにある、ラント領主の墓に呼び出されたのはついこの間の事。アスベルのお父さんである、アストンさんの一周忌という事らしく、ぜひ花をあげに聞くれないかと誘われたのだ。
アスベルのお父さんに、わたしは直接会ったことはないけれど。わたしが今この世界で暮らすことが叶う理由の多くはアスベルだ。そんな彼を生み育ててくれた人に花を供えない理由などなく。久しぶりに二人に会えるし、と喜びながら、わたしは花を持って半年ぶりにラントの地を踏んだ。
新しい服を着て、すっかりラントに馴染んだソフィと三人で訪れたそこは、一つの墓石の周りに色とりどりの花が所狭しと供えられており、それだけでアストンさんがどれだけ慕われていたかが解る。
わたしもその中に花を添えて、ソフィは墓石の上にクロソフィの花を供えた。
「親父が死んで、もう一年か」
「凄いお花」
「ラントのみんなが、親父の為に供えてくれたんだ。俺は領主としてまだまだだけど、この先も悩みながらやっていくよ。親父が……そうだったように」
そう言ってから、アスベルは空を仰いだ。
わたしもつられて空を見れば、そこには羅針盤が見える。
あの空の海の向こうから、わたしもソフィもラムダも来た。
ラムダはまだ目覚めていない。
けれど、アスベルの紫の瞳は今日も綺麗だから、きっと優しい世界が見えるだろう。
「見ていてくれ、親父……」
「アスベル、悲しい?」
「いや、もう大丈夫だ。人は必ず死ぬ。遅かれ早かれ、いつか別れは訪れた。そう思う事にしたんだ」
「人は、いつか必ず死ぬ……」
「ただ、もっときちんと話をしておけばよかったと思う事はある。今の俺やヒューバートの姿を見せたかった。それが叶わないのが、今は悔しいんだ」
ソフィは何かを考え込むように沈黙する。
……彼女もいろいろと思う年頃になったんだろうか。
そんな、多分見当違いの事を考えていれば、アスベルが控えめに話しかけて来た。
「シオリ、今日はわざわざ来て貰って、その……ありがとう」
「ううん、気にしないで。わたしはアストンさんを知らないけど……でも一度会ってみたかったから。それに、アスベルやソフィにも会いたかったし」
「そ、うか」
それだけ言って、ついと目を逸らす。
なんだろうか、ラントに来てからアスベルの様子がちょっとおかしい気がする。
不必要に距離を取ろうとするし、目を合わせてくれなくなったし……もしかして、嫌われたのだろうか。
え、それはかなり辛いんだけど……
「……アスベル、なんか変。最近仕事そんなに忙しいの?」
「いや、まあ確かに忙しいには忙しいけど……でも最近はソフィも手伝ってくれるし。それよりも、ちゃんと領主を出来ているかが不安だよ」
率直に聞けるわけもないのでそう問えば、普通に答えは返ってくる。
意味わからんとです。アスベルもそういう年頃なんだろうか。
「ところでシオリ、前にした約束の事なんだが……」
「え! あ、あー……いや、ええっと、いいよまだ、仕事忙しいんでしょ?」
「だが、もう半年経つんだし」
「いいってば大丈夫! もっと落ち着いてからで、ね!」
ラムダとの戦いが終わったら、ひとつだけわたしのお願いを叶える。そして、わたしもその代わり、彼の話を聞く。
その約束のことは、もちろん忘れていない。でも、わたしがしたいお願いって、ようはデートのお誘いなわけで。なんというか……今更改まって「わたしと1日、デートしてください!」とか言えなくなってしまって、じゃあ別の何かをお願いしよう、と思ってもなんだかうまく思い浮かばなくて、こうしてごまかしては引き延ばしている状況である。
うーん、意気地なし。それでもわたしはそれをアスベルの多忙で誤魔化して、とりあえず一度ラント邸に戻る事となった。
だが、ソフィにそう伝えても彼女はぼうっとしたままで、返事を返してはこない。もう一度強く呼んで、それから彼女は驚いたようにわたし達を見た。
「ソフィ?」
「どうかしたの?」
「今、ここに……」
ソフィが何を示そうとした途端、強い風が吹き抜けた。
思わず目を瞑ってしまう風が止んでから、ソフィは呆然と呟く。
「夢……だったのかな……」
「起きたまま夢を見るなんて、随分器用なことをするな。さては、夕べ夜更かししたな?」
アスベルがからかうと、ソフィは無言のままうなだれてしまった。
それは肯定の意味なのだろうか。
少し違うような気もしたが何も言わずにいると、アスベルはそのまま歩き出した。
「少し昼寝でもするといいさ。さあ、そろそろ戻ろう」