ただの幼馴染だよなんて言い飽きてる


どうしよう、ただ部活帰りの正人くんに会いたいだけなのに、なんでこんなことになってるんだろう。
わたしは今、背の高いイケメンに壁ドンされている。スラっとしたスタイルに、誰がどう見たって整ってる顔立ちに、わたしの顔の横に置かれた手は正人くんと違ってたくましかった。そう、ただのイケメン。
ただとても残念なのは、なんだかものすごく睨まれてるしさっきからわたしが男なのか女なのかぶつぶつ言ってて少しこわい。ていうか私女子の制服着てるのに疑われるってなんなの…?泣かせにきてるの…?

「お前女か…?いや、女ならなんでこんなとこ覗いて…?来るはずねえよなこんなとこ……。男だったら入部希望か、スパイの可能性もあるな…?」
「あの〜、どこからどう見たらわたしが男に見えるの?逆に教えてほしいんだけど」
「あ?どこってお前、制服くらいしか証明するもんがねーじゃねーか」
「十分じゃない?!…っていうかちょっと待ってよ、胸があるでしょ胸が!制服以外見分けるとこがないみたいな言い方やめてよ!もう一回言ったらあなたの手をわたしの制服の中に入れます!そして叫びます!」
「あ、ああ、わかった、疑ってスマン」

若干引きつった顔のイケメンが、後ずさる。よく見るとスポーツウェアだし、旧体育館でこんな格好してるってことはこの人カバディ部か…。いろいろだいじょうぶなのこの人…。万が一の場合、いつでも体育館の中に駆けこめるようにしようと体育館の扉ににじり寄っていると、またイケメンが厳しい表情を取り戻している。

「おい待てよ、お前、女だとしたらなんでこんなとこにいんだよ」
「いちゃいけないんですか」
「うちは人数少ねえから、マネージャーとかいらねーぞ」
「そんなことくらい知ってます〜幼馴染に会いにきただけだもん」
「幼馴染い?」
「もう部活終わる時間だし寮に行くまでの間だけでも話せないかな〜とか、あわよくばファミレスなんか行けないかな〜とか思って」
「部活帰りのやつにけっこう厚かましいな」
「仲良しなんだからいいんです〜」
「誰だよ、その幼馴染って」
「正人くんだけど」
「まさとくん?」
「え、カバディ部なのに知らないの?」

馬鹿にしたわけでもなくただ純粋に驚いただけだったんだけど、イケメンは不機嫌そうに知らねーよと口を尖らせる。男の子同士だしあんまり名前で呼ぶってわけでもないのかなあ。まあ、部長の名前くらいは知っといたほうがいいと思うけど。
正人くんのフルネームを伝えようとしたその瞬間、ガラリと体育館の扉が開く。顔を出したのは、まさに今紹介しようとした正人くんだった。大きな目をさらに大きくさせて、私とイケメンを見てはしきりに瞬きを繰り返している。かわいい。来てよかった。

「えーと、もう体育館閉めるから宵越くんは早く着替えてねって言うつもりだったんだけど…邪魔だったかな…?」

気まずそうに閉められた扉に、今度は私とイケメンが顔を見合わせて瞬きを繰り返す番だった。え、待って、正人くんさっきちょっと顔赤くなかった?すごく嫌な予感がする。何かを勘違いしている気がする。誤解を解こうと扉に手をかけると「慶〜!名前の彼氏誰だと思う?!」なんてすごくわくわくした正人くんの声が耳に飛び込んできて今すぐ気絶したくなった。誤解されたのもその誤解を慶ちゃんに伝えられたのも百歩譲っていいとして、あんなに嬉しそうに言われるとなんかわたし幼馴染としてもどうなの…?正人くん、幼馴染に彼氏なんかできちゃったらもう側にいたりとかできないよ…?カバディがあるからいいんですかね…?

「何言ってんだ?部長」
「宵越くんって君だったんだね…正人くんから聞いてるよ…」
「ど、どうした…なんかいきなり元気なくなったな…」
「なくなるに決まってるよ〜!ぜんぜん、ぜんぜんダメだ…カバディがどうとかじゃない、私がダメだ」
「お、おお…?よくわかんねーけど、ダメとかじゃねえって…頑張れ…よくわかんねーけど」
「ありがと…宵越くん意外にいい人だね…」

すごく戸惑いながらの慰めだったけど、少しだけ前向きになれた時にまたガラリと扉が開く。私たちを見た慶ちゃんが秒で崩れ落ちて、お腹を抱えて笑っているから今ここで気絶して起きたら全部夢だったとかほんとならないかな。無理かな。扉の影から、正人くんが手で顔を覆いながらこちらを伺っている。指の隙間からしっかり覗くまるい目は、またクマの縁取りが濃くなっていた。