「正人くん、先に言っとくけどわたし鈍いし最近体育以外で運動してないしご飯食べたばっかだし動ける感じの服装じゃないし、あと、一応女だからね」
「わかってる。触るのは腕だけにするから」
「いやそんな心配じゃなくて…ちゃんと手加減してね…」
「大丈夫だよ。一対一なんてありえないし、遊び感覚で気軽にやろう」
「待って、すでに目が笑ってないんだけど!むり!やっぱむり!」
中止を求めたけど、すでにキャントを始めてしまった正人くんには言うだけ無駄だった。こうなったら全力でやるしかない。ストラグルされるの前提で、正人くんが帰る時にどこかしら掴んだら倒れる、かもしれない。正人くん細いし。慶ちゃん相手よりはきっと可能性ある。
もしかしたら勝てるかも?!なんて少し浮かれた瞬間、腕に何かが触れた感触がする。ストラグルされた、とわかったのは、もう正人くんが手を伸ばしただけじゃ届かないようなところにいるときだった。走り去っていくその後ろ姿がすごくさみしくて、制服だってことも腹ごなしの軽い遊びだってことも忘れて、その細い腰におもいきり飛びついた。
驚いたように振り返った正人くんと目があう。まさかタックルされるとは思ってなかったんだろうな。私だってするつもりじゃなかったし、こんなとこ慶ちゃんに見られたらたぶん殺される。全身全霊の体重をかけてしがみついたけど、少しよろめいただけの正人くんはわたしを腰にぶら下げたまま自陣に帰ってしまった。
「あ〜〜〜〜〜」
「勝てると思ったんでしょ」
「うん、ちょっと思った」
「さすがに名前よりは鍛えてるよ」
「ねえ、これ、未来永劫かかってもわたしが勝てないシステムじゃない?」
「掴まれたり触られたりしたら、すぐ止まって名前の勝ちにしようと思ったんだけどね」
なんだそのちょっと優しいルール。そういうことは先に言ってくれたらよかったのに。なんだか気が抜けてしまって、その場にへたり込む。正人くんがあんまりおかしそうに笑うから文句の一つでも言ってやろうと思うんだけど、なぜか何も浮かんでこない。目線を合わせるようにしゃがんだ正人くんが、昔と変わらない笑顔で「ねえ、カバディって楽しいでしょ?」と首をかしげるから、どうしようもなく胸が苦しくなって、泣きたいような笑いたいような気持ちになる。
「今度はもっときちんとやろうよ、名前ももっとカバディが好きになる」
「ん〜、正人くんの事倒せたら面白そうだな〜って思った」
「守備か〜…。名前が守備やるならもっと太らないとなあ」
「そうだねえ…。でも、慶ちゃんならともかく正人くんなら思い切りしがみつけばいけると思ったんだけどなあ」
「待って名前、僕だって慶と同じくらいたくましいから」
「うそだ〜」
「いやほんとだから。じゃあ今から慶呼ぼう。腕の太さとか比べたらわかるから」
「い、いいよ呼んでくれなくて!」
「腕相撲勝負とかするから見てて」
「いやだからいいって…!ちょっと、電話やめて?!」
「あ、慶?いますぐ旧体育館来れる?腕相撲しよう!」
「慶ちゃん来なくていいから!ゆっくりしてて!」
「イマノハウソダヨ〜」
「慶ちゃん今のが嘘!正人くんが嘘ついた!」
「ハヤクショウブガミタイッテ〜」
「今のも嘘だから!信じて慶ちゃん!」
「ケイハソンナウソシンジナイヨネ〜……あれ、慶?」
「え、慶ちゃん?」
「切られた」
「えええ」