「あれ、名前どうしたの?遠慮せずに食べてよ」
ミーティングのない昼休みに、久しぶりに慶と名前の3人でご飯を食べることになった。発端は慶の、「明日久しぶりに名前も誘って飯食うか」なんて、欠伸をしながらのすごく面倒臭そうな一言だったけど、あれは明らかに照れ隠しだと思う。慶、僕にはわかっちゃったよ、ごめん。だってそういうところ昔と一緒なんだもん。
僕も名前に会いたかったし、せっかくだからお弁当作るよ!なんて張り切って作ってきたけど、なんだか名前の箸の進みが遅い気がする。
「えーと、あの、正人くんの料理すごくおいしいから大好きなんだけど」
「うん、具合悪いとかだった?大丈夫?」
「あの、わたし、ネギ食べれない…」
「えっ?!」
「え、何、お前まだネギ嫌い克服してないの」
「ネギの味しないのは食べれる!」
「何だよネギの味しないネギって…なんの食材だよ…」
「乾燥ネギ!」
「そんなのインスタントのもんにしか入ってないだろうが」
ネギ嫌いなやついるなんてびっくりだよな、となんでもないことのように笑う慶だけど、僕はむしろ、名前がネギ嫌いなのを当たり前のように知っている慶に驚いた。僕の知ってる名前は好き嫌いなんかぜんぜんなかったのに。いつの間に。
たっぷりネギの入った肉野菜炒めをそれでも、おいしいねと口に運ぶ名前の顔は明らかに引き攣っていた。
「おい、ネギだけ食ってやるからこっち入れろって」
「やだ、正人くんの作ったご飯だから食べる」
「お前そんな顔して食ってても失礼だぞ」
う、と困ったように眉を垂れて、助けて欲しそうに僕を見るその顔は昔と変わっていない。さっき感じた焦りのようなものがすっと消えていくのがわかる。
自分のお弁当箱を差し出してこっちに移していいよと言うと、やっぱり申し訳なさそうな顔のままネギを移し替えていく。そんな名前を見て慶がニヤニヤしてるのがなんだか腑に落ちないけど。しかも、足でゲームしてる最中とか、いろんな塾で模試一位とって辞めた直後とかの、なんか嫌な感じのニヤニヤ。そのニヤニヤがせっせとネギを移し替えている名前の頭越しに、僕に向けられる。
「そういや、この前名前とラーメン行った時もこんな感じで困ってたよな〜」
「ラーメン?!二人で?!」
「近所のファミレスで朝飯食った時も、味噌汁のネギ食べれないって泣いてたっけ」
「なにそれ仲良しじゃん!ずるい!僕も誘ってよ!」
「正人は名前のことなんかあんまり興味ないかな〜と思って」
「あるよ!僕だって名前の幼馴染だもん!多分慶よりぜんぜん興味ある!」
「へ〜?」
ネギかキャベツか真剣に見定めている名前の肩を掴む。
「名前!今度僕とご飯行こう!」
「え、どうしたの正人くん、ごめんあんまり二人の話聞いてなくて」
「僕だって名前に興味あるから!」
「はあ?!」
「なんなら釣りとか行って、そこで名前のことじっくり聞かせて」
「え、なにこれ…夢…?あ、ネギの幻覚…?」
「な、なんだよお前ネギの幻覚って…やべえ…死ぬ…」
「慶ばっかり名前と仲良しでずるい!」
おずおずと頷いた名前の顔はまだぼんやりしていたけど、それでも懐かしいような嬉しいような気持ちが喉元からこみ上げてくる。名前とどこかいくのは本当に久しぶりかもしれない。ちょうどまた釣りに行きたかったし、釣り堀とか行きたい。
「ねえ名前、今度の日曜日は部活ないけど」
「うん、正人くん、あのね、すごいうれしい」
言葉通り、すごく嬉しそうに笑った名前の目元がほんのり赤くて、本当に一瞬目を奪われた。昔から僕たちの後をついてきてて、それがかわいいなあなんて思うことはよくあったけど。なんかちょっと違う気がする。ドキッとした。そういえば肩だって昔は僕たちと同じような感じだったけど、柔らかい気がするし少しまるみがある気がするし。あれ。あれ…?
「おい正人、ネギの幻覚は迂闊に思い出すとやべえな…」
自分で言った言葉に吹き出してまた笑い転げている慶が本当に邪魔。