映画みる


「これでは3日と暮らせんな…」

さっきいっしょに借りてきた映画を見て、理鶯がすごく残念そうに首を振っている。無人島に漂着してサバイバル生活をする映画なんだけど、本物のサバイバル生活をしている理鶯からしたらとても残念なものらしい。テントの周りに藪が多すぎるとか川が近くにないから飲み水の確保はどうするんだとか、ソファから身を乗り出して誰よりも主人公を心配している。

「理鶯、この人きっと無地脱出できるからそんなに心配しなくてもだいじょうぶだよ」
「だが名前、こんな藪だらけの場所で寝泊まりするのは良くない。虫に刺されるし、ヘビや危険な生き物も潜みやすい」
「うん…。まあまだサバイバル生活始まったばっかだし…そのうち気づくんじゃないかな…わかんないけど…」
「もう2日も経ってるんだぞ?」
「まだ2日でしょ?!理鶯、そんなに順応早かったら映画終わる頃には主人公ここに永住できるよ」
「それは難しい。ここに永住するには装備も貧弱だし場所が悪い。もっと適した場所を見つけてから考えたほうがいい」
「え、例えだから本気にしないでよ…たぶんふつうにお家帰れるよ…」
「お前のことも心配になってきた」
「なんで?!」
「あまりにも危機意識が低すぎる」

森の中で右往左往している映画の主人公に向けられていた目が、私へとうつる。眉間に皺を寄せたその表情が思ったより真剣に心配してくれていて、なんだかドキッとするし嬉しいしありがたいけど、あんまりいい予感はしない。来る日のためにサバイバル特訓とか言いだしたらどうしよう。こんな近寄りがたい風貌だけど理鶯はとても世話好きなのだ。

「り、理鶯〜アイス食べたくない?」
「遠慮する。名前、まずはこの映画を最後まで真剣に観ろ。疑問に思うことがあったらなんでも小官に聞け。お前にも突然こんな生活を強いられる時が来るかもしれない」
「縁起でもないこと言わないでよ!だいじょうぶ、わたしは絶対だいじょうぶ」
「備えあれば憂いなしだぞ」
「いや、もっと軽いところから始めさせてよ…」

うちには備蓄の缶詰もなければ懐中電灯だってたぶん置いてないのに、いきなり無人島暮らしできるようになれって言われても。詰め寄ってくる理鶯をむりやり押し返して台所に避難すると「お前は左馬刻よりもこらえ性がない」とため息を吐かれた。いやいや、さすがにあんなに喧嘩っ早くないから。碧棺くんほどじゃない。たぶん。
冷凍庫からアイスを取り出して、理鶯の隣で食べ始めたらまったくお前は…みたいな顔をされた。映画の中では、主人公が右往左往しながらもなんだかたくましい顔つきになっている。

「アイスおいし〜」
「…………」
「理鶯、このアイスすごくおいしいです」
「……………」

さっきから、理鶯の視線がチラチラとこっちへ向いているのには気づいている。理鶯のことだから、別にアイスにはそれほど興味ないけどいつか作ってみたいから味を知るために食べてみたいってところだろうなあ、きっと。でもたぶん理鶯のところじゃアイスなんて作れないと思う。いや、それとも理鶯ならなんとかしちゃうのかな。
理鶯はなんでも一人でできてしまう。たぶんこの日本列島が沈没したって一人で生きていける。でもわたしにはこうしてたまにとはいえ、理鶯のいない生活なんてぜったい無理だ。

「食べる?」
「…いいのか?」
「いいよ。でも、もし天変地異が起こって焚き火を起こさなきゃいけない生活になったら、理鶯ずっとそばにいてね?」
「いや、それは難しいな。そんな状況では軍も再建されるだろうしな」
「え」
「だから名前は一人で生きていける術を身につけてくれ」
「えええ」
「お前が一人たくましく生きていけるようになるなら助力は惜しまない」

そうきっぱり言い切った理鶯が差し出したアイスを齧ろうとしたから、咄嗟に顔を掴んで押し返したら今度という今度は思い切り睨まれた。でも、どう考えても理鶯がわるい。理鶯なんてしらない。