「え…り、りお…これ、なに…?」
「ああ、それはカブトムシの幼虫を焼いて」
「待って言わないで!わかった!」
「貴重なタンパク源だ。遠慮せず食え」
テーブルの上に並べられた料理に気絶しそうなのをぐっとこらえる。理鶯から、ふだん世話になってるからご飯でも振舞いたいと連絡があった時から多少の覚悟はしていた。入間さんや碧棺くんから散々話を聞かされてたから、自分で手羽先を買ってきてこれはカラスの足…カラスの足…って暗示をかけてみたりしたしササミをほぐしてこれはヘビ…これはヘビ…って騙しながら食べたりもした。そのおかげかネズミ以外ならなんとか騙し騙し食べれるかな、と思って来てみたのに。
「理鶯…今日、なんか、あの、虫…多いね…?」
「ん?ああ、女性はこういう可愛げがあって食べやすいものの方がいいと思ってな。俺なりにいろいろ考えてみたんだが」
「か、かわいい…?」
「いい蛇が罠にかかってはいたが、すがにお前は嫌がるだろうと小官が朝食べた」
「食べちゃったんだ…」
「なんだ、食べたかったのか?」
「食べたいかどうかと言われるとアレだけど…」
ヘビ大好き!ってわけじゃないけど肉がついてる分まだ食べやすいんじゃないかと思う。たぶんあの白くてプリプリしたものはなんかこう、ジュワッと何かが染み出してきそうな…なんかそういう…そういうあれだよ。どうしよう。理鶯がすごく嬉しそうな顔してる…。ふだんことあるごとに私をたくましく鍛えようとしてくる理鶯なのに、なんで今日に限ってこんな気遣いするんだろう。
とりあえずサラダのようなものを食べてみたら、苦いような味が口いっぱいに広がる。ハーブのような独特の風味がするけど、見た目が可愛いから美味しく感じる。薄紫の小さなお花が可愛い。そう、可愛いっていうのはこういうことだよ理鶯。
「これおいしいね」
「それは食べられる野草だ。リラックス効果もあるから、後で乾燥したものでお茶にしよう」
「わ〜じゃあなおさらしっかり食べなきゃだね…リラックスしなきゃ…」
「名前にはあまり必要ないように思うが」
「いや〜」
お茶の時間までこのサラダを食べて乗り切りたいけど、理鶯の表情がなんだか怪訝なものに変わってきている。いや、さすがにこんなにお皿が並んでる中でサラダだけ食べ続けるのは無理があるけど。わかってるけど。でもどのお皿にも正直目をそらしたくなるような虫が並んでいるからしょうがない。どうやったらこの場を食べずに乗り切れるか考えすぎてさっきからサラダの味も分からない。
悩みながら機械的にサラダを口に運んでいると、しびれを切らした理鶯が自分のフォークにプリプリの幼虫を刺して、私の口元に寄せる。思わず悲鳴をあげなかったわたし本当に偉い。
「名前、遠慮なんてしなくていい。お前にはいつも泊めてもらったりしてるから、せめてものお礼だ」
「え、遠慮なんて…遠慮なんてぜんぜん…」
「今は訓練中だし、お前にしてやれることは飯を振舞うことくらいだ。お前のためを思って作った。食べてくれると嬉しい」
「理、理鶯...」
「なかなか会うことも難しいが、お前のことはきちんと大事に思っている。だから小官に対して遠慮なんかするな」
「理鶯...」
わたしが、理鶯のことが好き!付き合って!って言った時も、表情一つ変えないで「ああ」って頷いただけだったしこんなにはっきり言われてなんだか感動してしまった。嬉しくて視界が滲む。ただその滲んだ視界でも口元に寄せられた幼虫がチラチラ見える。はっきり言ってすごく邪魔。
私だって理鶯のことがすごく大事だ。いなくなったら生きていけないくらい存在が支えになっている。本当に好き。大好き。「さあ、食べてみろ」と幼虫が口に触れるか触れないかの瞬間覚悟を決めた。だいじょうぶ。理鶯のためならなんでも食べれる。た、食べれる…!食べれる…。
「り、りおごめん…わたし、あの、虫食べれない…ええと、あの、宗教上の理由で」
「何、そうなのか?」
「虫は禁止されてる」
「む…そうか…それは仕方ないな…」
「うん…せっかく用意してくれたのにごめん…本当にごめん理鶯」
「謝らなくていい。そういう理由なら無理に食べさせようとして悪かった」
「いや本当にごめん理鶯!ごめんね!でも好きだよ理鶯!あ、サラダ全部食べちゃっていい?!」
「ああ、もちろん」
「ご、ごめんね…」
理鶯の穏やかな顔にまた涙がにじんできた。