7



再び目を覚ますと、夜が明けていた。

木目の天井が見えて、私は裸のままタオルケットを被っていた。
頭がボーッとするのは、だいぶ治まったようだった。


ふと先程のことを思い出して、泣きそうになった。

桐生さんは私のことをどうしたいんだろうか。
抱かれたからこそわからなくなった。好きな人にレイプされるなんて、こんなに苦しいことがあるんだ。


涙が出ようかというとき、スッと腰に腕が回されて、私は声にならない悲鳴を上げた。
ギョッとして振り向くと、裸のままの桐生さんがこちらを見つめていた。

「桐生さ、起きて、」

起きてたんですか、と言いたかったが、喉が最後まで音にしてくれなかった。


桐生さんはまた、あの聖母の顔立ちに戻っていた。


何かを恐れながら、私の髪に手を伸ばし、そっと、撫でた。
彼の表情が、申し訳ないことをした。愛してる。そう伝えていたから、更に気が動転してしまいそうだった。


「桐生さん。」

少しの沈黙のあと、ああ、と桐生さんは声に出した。

「桐生さんは、私をどうしたいんですか。」


桐生さんは一瞬困ったように顔を顰めたが、その後また穏やかな表情に戻って、

「好きだ。」

とだけ伝えた。


全然わからない、全然納得できない。どういうことなの。


「じゃあ、何でそんなに悲しんでいるんですか。」

沈黙が返ってきて、桐生さんは申し訳無さそうにしているばかりだった。……仕方ない。私は彼の腰にそっと手を回して、きゅっと自分を彼の方へ引き寄せた。
彼の胸に顔を寄せて、自分の気持を伝えようとしてみる。
わからず屋には、優しくしないといけない。


「昔、」

ポツリと、頭の上から声が降ってきた。

「うん。」

私は彼の言葉に神経を集中させた。

「昔、好きなヤツがいたんだ。」

「……うん。」

「ソイツは、俺の目の前で、死んで」

「……。」

「俺はソイツのことを、忘れられずに、」



ああ、なるほど。



――だからお前には桐生は渡さねえよ。



この人は、呪われているのだな。