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東京に帰る日がやってきた。

あれから一日は一人で過ごして、一体どんなことが起きたのか、丁寧に思い出しながら沖縄を歩いた。

最後の日の今日は、買いすぎたお土産を早めに東京に送ってしまって、昼過ぎにまた、アサガオに顔を出すことにした。



東京に帰る荷物をまとめ終え一息ついていると、携帯にメールが入った。

【下に着いた。行けそうなら降りてきてくれ。】


桐生さんからだった。




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最終日のお土産は、みんなで遊べるボードゲームにした。

この前のお土産は女の子贔屓だったから、今度は男の子が喜んでやりそうなモノを。

「譲お姉ちゃん、お土産選ぶの上手だね。」

ニコニコと遥ちゃんが話してくれる。
遥ちゃんは本当にいい子で、憎めなくて、桐生さんの心の闇を、幾分か担いでいるのだろう。逞しいな。



桐生さんは数日前より目に見えて黙り込むことが増えた。

私に対してニコニコと接していたあの態度はやはり営業用で、本当はもうちょっと身勝手な人間なのだ。

私はそれが見られただけでも満足してしまっている。
しかし時々私を見つめるその目が、慈愛に満ちたものだとわかるときがあって、苦々しい気持ちになった。



理緒奈ちゃんも特に私に懐いてくれて、一緒にファッション雑誌を見て、東京ではこれが流行ってるよ、なんてマセた会話をしていた。

男の子たちはボードゲームにもう夢中になっていて、そうなると志郎くんが強いようで太一くんがぶつくさ文句を言っている。



こんなにあたたかい家庭を築けているじゃない。

桐生さんの優しさは演技であってもそうでなくても、子どもたちに現れたその愛情こそが、本物なのだとわからせてくれる。


ふと彼を見つめると、目があってしまい、優しく微笑まれてしまう。

惚れ直しているなんて、そんな。












「わざわざまた送っていただいて、すみません。」


「そんな風に言わないでくれ。」


弱った表情の桐生さんは、ふと私に近づき、少し迷った後、額にキスをした。

私はというと、それでもう充分だった。


私にできることはもう伝えた。
あとは桐生さんがゆっくり選べばいい。



「また連絡する。」

「うん。元気でね。」

お返しにキュッと手を握って、ハラリと解いて、ヒラヒラと振って見せた。


桐生さんが淋しげな表情を浮かべたので、クルッと勢いよく振り返ってゲートに向かって歩き出す。
搭乗口に向かう私の足取りは軽く、口元には笑みが浮かんでいた。


一生忘れられない沖縄での5日間になっただろう。

明日からまた日常が始まるのだ。






Fin.



怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。