小さい頃から、物語が好きだった。特に『グリム童話』や『不思議の国のアリス』のような、少し不思議で少し怖くて、そしてとても面白いお話が大好きだった。
それは中学に進んで、高校に進学してからも変わらなかった。成長するにつれてその物語を読んで思うことは変わっていったけれど、面白くて何度も何度も読み返してしまうのは、昔からちっとも変わらなかった。
これから少なくとも四年間、朝から晩まで考えるのは物語のことがいいなと、高校三年生のときに思った。
念願の大学の文学部に進学して、一般教養の授業を受け始めてから、一週間が経った。
「サークルどうしようかなあ……」
「ねー。とりあえず見に行きたいけど、数が多すぎて何が何やらわかんない」
教材を腕に抱えて、長い廊下を次の教室へと歩く。オープンキャンパスで来て以来ずっと思っていたけれど、最近建て直しただけあってやっぱりとても綺麗だ。
隣で私の呟きに答えてくれたのは、知子ちゃんだ。入学式の時に隣で、知らない人ばかりで緊張していた私に話しかけてくれたとってもコミュ力の高い女の子だ。さっぱりした短い髪の女の子で、まだ出会って一週間しか経っていないけれど、すごく気が合うなあ、これからも一緒にいたいなあ、と勝手に思っている。
「今日はどこか見に行く?」
教室に入りながら、知子ちゃんが聞く。
「うーん、行きたいんだけど、私下宿だから、今日は買い物行かなきゃ……」
「あー、下宿だったね。大変そう。料理とか」
「料理は好きだからいいんだけど、いつも作りすぎちゃって」
「うわっ女子力高い! 私料理無理。あ、余ったの今度持ってきてよ」
「いいよー」
絶対持ってきてと念を押す知子ちゃんの顔が必死で、思わず笑う。
それから何となしに、教室内に目を向けた。
室内には、思ったよりもたくさん人がいた。先週はすごく早めに来たから空いている内に席が取れたのだけれど、今回は既に前の方は埋まっている。真ん中辺りからぽつぽつと空席があるくらいだ。
いつもどちらかというと早めに教室に来るので、生徒が集まっているところを改めて見るのは初めてかもしれない。私の学校には文系に芸術学部も設けられているからか、ところどころに目を引くくらいのお洒落な子が座っているのが面白い。
「千絢、空席二個並んでるとこ見つかった?」
知子ちゃんの声で私は我に返った。慌ててちゃんと席を探す。
ふと目に留まった空席は、その横に男の子が座っていた。横顔がものすごく綺麗な、黒髪の男の子だ。耳にいくつかピアスが光っている。赤を少し柔らかくしたような色のヘッドフォンをして、スマートフォンを片手に見ていた。どことなく、近寄りがたい雰囲気がある。
そういえばこの前、近くの席で、別クラスにものすごい美人の男の子がいるって話が上がっていた。もしかしたらあの子かもしれない。
「あ、千絢! 前の方に丁度二席空いてるの見つけた!!」
隣で知子ちゃんが言った。彼女は裸眼で視力が2.0よりもっとあるらしい。私も裸眼だけれど、さすがにそんなに視力はない。パイロットになれるよと言ったら、高所恐怖症だから無理だと笑って答えが返ってきた。
「知子さん流石です」
「取り柄ですから!」
二人でそちらへ向かう。教卓の後ろの大きな黒板や、談笑する同級生たちを見て、思わず口元が緩む。未だに夢のようで、ここにちゃんといるという実感があんまり湧いていない。この感覚を忘れないでいたいなあと思いながら、まだ真っ白のノートを開く。
隣
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