※ちょっと背後注意
SF本戦あたり。季節関係丸無視

暑さを凌ぐには、沢山の方法があるが寂れた孤島は、特に娯楽もない。遊び盛りの少年少女はごく限られた方法でしか涼をとることが無かった。
そのような状況で、なまえは気だるそうに仕方なく粗末な製氷菓子をシャクシャクと頬張り、不快な暑さを放つ夏の斜陽を眺め涼しい夜風を運ぶ星の帷を今か今かと待ちわびる。とても気の合う、1度は袂を分けたが、不思議な縁で再会した男の子と共に遠くで聞こえる綾波をただ静かに聞いて、特に話すこともなく隣同士でぼぅ、と宙を見つめていた。がそれはなまえだけであり、共に居る少年はなんだかよく分からない不思議な表情で彼女を見つめていた。

「美味しい?」
「うん。普通に美味しいよ。食べる?」
「……本気で言ってる?」

少女は一瞬、リゼルグの言葉の意味が分からなかったが、よくよく考えると回し食べというのは確かに行儀が悪いな。と結論に行き着いた。
自分と異なり、リゼルグという少年は振る舞いがとても品性ある少年だ。食べかけを食べさせるのは失礼だったな。とちょっぴり申し訳ない気持ちになるなまえにリゼルグは何を思ったのか溜息をひとつ吐き、胡座をかきだらしのない格好をした彼女の上に跨り出したではないか。

「……は?ど、どうしたの?そんなに嫌だった?」
「なかなかどうして。人の心は本当に複雑だってのに単純な事は分かりやしないんだね」
「いや、全然わかんないよ。なんでそんな事いきなりするのか、」

まるでわからない。なまえの言葉は、リゼルグの突飛な行動にかき消された。
汗ばむ首すじから、口元に残るソーダ味のアイスの滓をまるで恋人同士の睦事みたいに、なまえが驚きのあまり声の出ないことを良いことにして様々な場所に口付けや唾液を残し食む。それを羞恥心に耐えかねた彼女が静止するまでつづけた。

「君、鈍感すぎ」
「……だ、だからって、こ、こーゆー事は恋人でもないのにしちゃダメ、でしょ」
「ふーん。ボクの事好きなくせに。怖がって行動に出てないつもりだろうけど、知ってるんだよ?」

なぜそれを、知っているのか。
リゼルグという少年はとても聡い人物であるというのは少しの間、共に過ごしていた時に感じていた。
彼の鋭さや、脆さ、その他様々な彼の良さに対しなまえは自覚のある恋心を抱いていたのは事実だ。しかしそれらしい仕草や、あからさまな態度を出すのはなまえはできなかった。
だからこそ生来の適当さに定評ある性格で。適当に折り合いをつけ、適当な関係を保ち、このまま青い思い出として大切な1つの過ぎ去った想いにしようと考えていたのに。

「し、知ってたの?」
「随分前から、知ってたよ。まぁ、ボクからの方は流石に知られてなかったけど」

跨る中性的な少年も同様に、薄手の軽装をしている。
なにか、なにか大事なステップを踏み上げそうな、そんな危機感と少しの期待を込めてしまうのは目の前の少年が思いを寄せる人だからだろうか。
夏の夕暮れ、暑さも相まり頭がぼぅっとしてきた。
彼が今こうしているのは幻覚なのだろうか。少女は暑さで頭がやられたのだろうか。
いや、少女も、少年も、夏の開放感でやられたに違いない。漸く仕舞い込んで潰していた恋心を晒せる絶好の機会を、双方は逃す理由がない。

「ねぇ、なまえ。いい加減素直になってよ」
「……素直って、言われても」
「たったひとこと、言えばいいんだよ。そうすればここに、ボクの気持ちを返してあげる」

美しい顔立ちの少年はまた一層なまえを赤面させる為に綺麗な顔を不敵に笑わせて彼女の小さな唇に指を這わせる。リゼルグの精一杯の性の煽りに対し、少女は困惑しつつもあぁ、私は随分と狡猾な少年を好きになってしまった。と困ったような顔をして思った。

「ね?ボクは早く君のここに、口付けたい」

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