※ちょっとお下品

麦わら帽子に白いワンピース。それは少年時代の淡い憧れと夏のノスタルジーへと誘う素敵な装いの一つだと俺は思う。

入道雲の隙間から直線を描く飛行機雲の青空に、遠くで鳴く蝉の声。
完璧すぎるこのセッティング。なまえもこういう場所だからだと思ってベターな白ワンピに、大きな麦わら帽子とかいう格好で来たんだろうな。うん、いい。何がとは言わねーけど、良い。

「ホロホロ!はやくこっち!」
「待てよ!さっさと先行くな」
「やーだ!!海行こうって言ったのはホロホロじゃん」

理想だと自転車で二人乗りしながら海まで…と思ったが無理だった。
どんなに頑張ろうとこの急勾配の坂道を自転車二人乗りで登るのは、まだまだ鍛えたりてないのかとても難しかった(けど半分くらいまでならなんとか登れたから、俺はすごい)。

「ホロホロ1人なら自転車でも登れるかも!」
「そうだな、お前重かったからこれなら俺一人でなんとかなりそうだ」
「ばっ、ばか!!誰がでぶだって?!」
「どこのどいつだろーな」

軽くからかうとすぐに口をへの字に曲げて不機嫌そうになる仕草は出会った頃から変わらずなので、大体どの程度拗ねているのかは察せる。
なまえはいっつもコロコロと表情を変えて面白いし、何より一緒に居て楽しい。
そう!一緒に居て楽しいから海に遊びに行くのであって決して、決して下心とかねーからな!水着とか、そういうのは全っ然期待してねーから!
……まぁ、年相応には気になる。

「ホロホロのいけず!!せっかくおやつ作って来てあげたけどあーげない」
「マジか、それはスマンかった!お菓子は食いたい!」
「……ほんと、あなたって食べ物と可愛い女の子には弱いよね」
「全部認めるけどよ、後者に関してはお前は可愛いの範疇外だな」
「もう!!そー言うと思ったわよ!ばか!!」
「なまえは可愛いってより愛嬌ある楽しいやつってカンジ」
「…………ふーん」

こうして喋ってる間にもう坂道の頂上まで来た。
道によって遮られていた、綺麗な青色の海が少し遠くの方に見える。あと目的地までもう少しっぽいな。
俺が追いつくのを待っていたなまえはもう自転車に乗ることは無く、また俺より早足気味に歩き出す。
…こいつも割と海が楽しみなんだな。めんどくさい時や、乗り気じゃない時はひどく歩くのが遅いのに。

真っ直ぐな一本道の脇に立つ電柱をいくつか通り過ぎた時だっただろうか、夏にしてはやけに冷たい風が吹き出す。
風上の方の雲を見ると、大きな黒い雲が見えた。
こりゃまずい、海に着く前に一雨来そうだ。

「おい、なまえ。もしかしたら通り雨が来るかもしれねーぞ」
「ぽいね、なんかさっきから風が冷た……あっ!」

会話の途中で突風が吹き、なまえが声を上げる。
帽子でも飛ばされたかと思い何気なくあいつの方を見た。
……後ろの坂から吹き上げられた風によってまあ見事に、その、うん、

「び、びっくりしたぁ。凄い風だったね……ん?どうしたの??」
「…えっ?!あ、あー、そ、そうだな、わはは」
「……顔真っ赤。どうせコレでも見て変なコト考えてたんでしょ」
「わ!!?ば、馬鹿!!!何やってんだよ!!」

どうやらあの奇跡の瞬間を察したらしいなまえは、何故か呆れるような、試すような顔であろう事かスカートの裾を捲りあげた!!!
だ、駄目だ!!俺には刺激が強すぎるぜ!!
コンビニに売ってるマンガの表紙にドキドキする位の純情さがウリの俺だぞ!遊ぶな!!

「ゆでダコみたいに真っ赤になっちゃって…へんたい!水着だから別に見えたって良いわよーだ」
「だからって!!ま、紛らわしいしそういう事はやめろ!!!あと、お前が変態じみてっからな!」
「ふふふっ、凄い慌てて面白い。そんなにこういうのが好きなの?」
「は、はぁ?!…まぁ、嫌いって言うと嘘になる」
「建前もへったくれも無いこと言うのね。気になる女の子の前じゃ変に紳士ぶるくせに」

……それは世界中どの男だって気になる女の前じゃ素を出したがらねーし。
ただまぁ、なまえは気の合うダチだし気になるっちゃ気になるけどよ、楽しさが勝つから、そこまで異性として気にしてなかった。
だからこそこういう不意打ちは色々とヤバい。色んな期待をするからやめてくれ。
あーもう、変な考えばかりが浮かぶな!
やめろやめろ。考えるな、これから俺たちゃ海に行くんだ。冷静になれ。

と思った矢先、ポツポツと大粒の雨が降り出してきた。
…雨宿り先を探しがてら、この昂った変な気持ちを沈めてくれ。
このままじゃこれから遊びに行くってのに、おかしくなりそうだ。

back