Surabaya

静かな小高い丘の墓地から見える夜景はとても美しく、私は夜がふけると大体そこで街並みを眺めたり、夜空を見ては不思議な気持ちに浸っていた。

今日もフラフラと、繁華街巡りを終わっていつもの場所へと向かうと既に先客がいる。
この体になってからはや幾年、段々と生きてる人間とそうではないものが分かるようになってきた。
あの先客は明らかに身形が現代にそぐわないので、直ぐにこっち側の「ひと」だと分かった。うん、今日は別の所で暇を潰そうかな。

「もし、お主いつもここにいる少女か?」
「ひゃあ!!!」

踵を返し墓地を出ようとしたところ、突然肩を叩かれ心臓が飛び出そうになる。あ、でも私は生きてないから心臓は無いのか…
そんなことより、振り返るとあの小高い丘の上にいた筈の男がいつの間にか背後に居た。

「申し訳ない、拙者が来る度にここに居るのでな、気になり声を掛けたのでござるよ」
「あ、あぁ、成程。ごめんなさい、突然過ぎて驚きすぎてしまったわ。なにか御用かしら」

心臓はなくてもドキドキはするもんで、落ち着かせるように胸を抑えつつ声を掛けた……士人の装いをした男の用を聞くと、何か躊躇いながらおずおずと「少し話がしてみたかった」と答えた。
そんなに気にせずとも、私は喜んでお話に付き合うのに。
死んでようが生きてようが、誰かと話すのは滅多にないのでとても嬉しい。
今日の夜は、少し楽しい夜になりそう。

「是非是非、お話しましょう!立ち話もなんだし、あの丘の上で座りませんか?」
「おおっ、それは良かった。いやなに、大の男が婦人に話をかけるのは少し気が引けてな。貴女が気さくな人で良かった」

*************

「あらまぁ……色々あったんですね」
「いやなに、一介のしがない雇われ士人でござる。ゆう…殿で良いのかな?」
「えぇ、そう呼んで構わないわ。阿弥陀丸さん」

ふんばりヶ丘にある少し開けた墓地には変に隆起した丘があり、そこには1本の木と1つの荒屋、そして目の前にいらっしゃる阿弥陀丸さんの墓石がぽつんと建っている。
我々一般の目には見えない、会話の無い存在は非常に交流を求めているので、こうして話すだけでもかなりの楽しいことなのだ。

どうやら阿弥陀丸さんはとある霊感がある少年とほぼ一緒に暮らしているらしいが、時たまこうして昔を懐かしむようにここに戻ってきていたらしい。
そこで最近になって私がいつも居るもんだから、気になって声をかけたそう。

「ゆう殿は、どうしてここに?」
「うーん……気づいたらこの街に居てね、ふらふらと随分変わった街並みを楽しんでたらここを見つけたの。夜は静かだし、星や街も眺められてとーっても好きなの」
「気づいたら、か。気分を害したら申し訳ない、生前は何を?」
「そこまで気を使わなくても大丈夫ですよ。私はお喋りが好きなんです」

目を瞑り昔のことを思い返しつつ、私は阿弥陀丸さんに私の生い立ちを話す。生前、こんなふわふわとした状態になる前の私は、人間の少女とかけ離れた姿の筈だった。

陸とは全く無縁の数々の海を制覇し、姉妹達と沢山の国へ行っては戦いの連続だった。沢山の仲間を失っては、悲しみを糧に敵を沈める。

最期の記憶は……ううん、あまりこれは、お話したくないわ。

「ごめんなさい。これ以上は貴方のご想像にお任せするわ」
「……何と、人間霊ではなかったのでござるか」
「うふふ、そこまで驚く必要無いでしょう。阿弥陀丸さんが居るのだって、普通の人間からすれば驚きよ」
「まあそうでござるな。いやぁ、ゆう殿は見かけによらず人懐こい、話好きな女性で良かった」
「ありがとう。昔から沢山の人と関わるお仕事だったから、人間は大好きなまま」

ふと空を見上げると、潮の匂いを含んだそよ風が吹く。
この街は、海から少し遠いのに風に乗って海の匂いがすることがある。
潮の香りを嗅ぐ度にいつもノスタルジーな気持ちになるのはきっと海が恋しいんだろう。

「海の方には行かないのでござるか?」
「うーん、恋しいんだけど…怖くていけないの」
「怖い?」
「怖いわ。そう、怖い。また嫌なことが起きそうで嫌なの」
「……」

ずうっと星を見つめ、自身の恐怖を語る。
初めて沈んだ水底はとても冷たくて、それでいて静かでただただ怖かった。
嫌なことをひとつ思い出すと、それにつられてズルズルとネガティブな記憶が蘇る。
嫌な連鎖にどう処理しようか考えていたら、阿弥陀丸さんは優しく私の掌を握ってくれた。

「あ、阿弥陀丸さん……どうしたんですか?」
「大丈夫か?」
「……うふふ、今大丈夫になりましたよ。あなたのお陰です」

彼の優しい行動が嬉しくて、さっきの嫌な気持ちはどこか遠くにすっ飛んでいった。
私が笑うと、阿弥陀丸さんはとても照れ屋さんなのかあたふたとしているのがまた面白かった。

「不思議。私達、もう血が通ってないのに阿弥陀丸さんの手、暖かいように感じるんです」
「……心、でござろうか」
「こころ…」

ぽかぽかと、とても穏やかな気持ち。
本当に今日はいい日だ。阿弥陀丸さんというお友達が出来た。

「ゆう殿、もし良ければ拙者の主の元に来てみては如何だろう?」
「あら、いいの??
…………いや、今は遠慮しておくわ」
「そうか…暫くはこの辺りにいるでござるか?」
「えぇ、私が飽きるまでは居るつもりよ。だから私が飽きたら、貴方のご主人にお願いして居候させて貰おうかしら」
「ははっ、それがいいかもしれぬな」
「あなたがた武人の言葉を借りると、流浪人。ね。さぁ、今日は朝まで話すわよー!」
「あいわかった。お付き合いさせて頂こう」

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