腹の虫


ごめん無理私本気だから。なんて子供みたいな意地を張って家を飛び出した私は現在駅のホームに居る。

本当につまらない意地を張ってしまった。冷静になればなんとでも言えたのに。

「…」

携帯を何度も見た。でも音沙汰はなくて。
呆れられたかな。今の私はきっと全然可愛くない。わがままなんて面倒臭いだけ。わかっていたのについキツイ言い方をしてしまった。


どこに行きたいわけではなくただ駅の改札を通ってきた。とにかくどこかへ行きたかった。
ううん、それも違う。
きっと。呼び止めてくれることを期待してた。追いかけてくれるんじゃないかって、思ってた。けど。

ため息をつく。生半可な自分が嫌になる。
英語が飛び交う賑やかな街も、リョーマがいないとどこにもいけないくせに。

ホームのアナウンスが鳴った。なんて言っているのかは正直よく分からない。
引き返せない。今更彼のもとにどんな顔で帰っていけばいいのかも私には分からない。

遠くから電車のライトが見えて、乗車口を進んだ。これからどうしよう。どこに行こう。ホームに入ってきた電車の風圧が目に染みて、色んな意味で涙が出そう。

と、そのとき携帯電話の振動を感じた。慌てて私は画面を見た。



 腹減った。早く帰ってきて。
 ごめん。



「…私も、ごめん。」

開いたドアを無視して来た道を引き返した。






玄関の扉を開くと口を尖らせたリョーマが座っていて、足元を見ればスニーカーの紐を解いているところだった。私が何を言うより先に「ご飯」と言った。

「うん、なに食べる?」
「和食。」

先に玄関に上がったリョーマの首筋に汗が流れていったのが見えた。
言葉よりも行動で示してくれるこの人に私は何度甘えれば気が済むのだろう。


「…名前。」
「…。」
「おかえり。」
「……ただいま。」

抱擁を受けるとリョーマのお腹の虫が鳴る。笑えばほらもう元通り。



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