レモン


今日は少し遠くの学校と練習試合。集合時間が早い。薄暗い通学路を歩けば見慣れた姿を見つける。名字だった。

名字はこちらに気付いて「絶対遅刻すると思ったのに」と口元を抑えながら笑ってくる。ほのかに漂う柑橘系の香り。

「何食べてるの?」
「眠気覚まし。」

名字はそう言ってレモン味のグミの袋をかざす。

「越前君も食べる?」
「いや、いい。」

集合場所の校門で立ち止まる。また一つグミを口に放り込んで名字は「綺麗だね」と言った。

「何が?」
「空。」

視線の先を見れば、朝焼け。

「こういうのが好きなの?」
「好きっていうか、綺麗だなって」

ふーん。

遠くから先輩たちがまばらにやってきて、名字は会釈をしてグミのチャックを閉じた。

「…やっぱりもらう。」

なんとなく、そんな気分になって手を出せば、名字はいいよーと軽い調子で応える。

手のひらに一つコロンと転がるそれ。

綺麗だと思える空の色とか、目が覚めると思えるレモンの味とか。少し知ってみたくなっただけ。



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