Chapter7 〜奇蹟〜





「おやおや、派手だねぇ」


修練場所に戻ってきた京楽が、奥の戦闘を見て目を丸くする。

彼此半日闘い通しの彼等に、玲は呆れの眼差しを向けていた。


「何があったんだい?」


そう京楽に問われるも、まさか自分が泣いたせいだなんて言えるはずもなく。

きっかけはどうあれ、


「ストレスでも溜まってたのかな」


そんな憶測の様な返事しか出来ない。


「成る程ねぇ。若いって良いね」


うんうんと頷いている京楽が、何を理解したかの様で。

一先ず無視を決め込んだ玲は、遠目に見える彼等の戦闘に僅かに目を細めた。


彼等が発露している霊圧は約五割。

しかし、実際に戦闘に消費している霊力は二割程度だろう。

それでも、あれだけ斬魄刀の能力を使い続けていて半日も持つはずが無い。

そこまで考えて、はっと目を見開いた。

瀞霊廷よりも霊子濃度を上げているこの空間で。

もしも、戦闘の最中にも並外れた霊子変換を用いて霊力を補給しているのなら。

これだけ長引いている戦闘が、未だ拮抗している事にも納得が行く。

けれど、それは普通の死神が意図して使えるような力ではなく。

殆どが無意識に行っている筈のもの。

それを、この戦闘で意図して出来る様になったのだとしたら。


「…天才、か」


天賦の才意外の何物でも無いだろう。


いつの間にか他の死神達も集まっていた事に気付き、玲は戦闘から視線を外した。


「取り敢えず、皆今の数値教えてくれる?」


「え、放って置くのかい?」


意外そうな京楽に玲はくすりと微笑んだ。


「今はまだ、大丈夫。頭に血が上ってるわけでも無さそうだし、好きにさせておけばいいわ」


思ったよりも放任主義の玲に呆気に取られた死神達。

しかし、遠目に見ても、どちらかが致命的に劣っている訳でも、傷付いている訳でも無いのが分かる。

故に、彼女の言葉に従った。

各自の制御率を聞いた玲は、一人一人にアドバイスをして、散った彼等の様子を見守る。

今の所、最も数値が高いのは七緒と卯ノ花。

理知的な彼女達は、効率の良い方法を、素より知っているのだろう。

頭で物を考えることが苦手な更木が、一番進歩が見えない。

遠目に見遣ると、氷の龍と、桜の刃が、衝突の激しさを増した気がした。

玲は黙って、自らが創った空間の霊子結合率を強化する。

仮にどちらかが卍解しても、崩壊することは無い様に。



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