Chapter9 〜流転〜

技術開発局の職員たちを上手く言葉で丸め込み、浄界章の本体が眠る部屋へ入った私は、石畳を破道で壊し、その姿を上から覗いた。
「あら、思ったより覚醒しちゃってる。霊力、保つかな」
ちらりと左腕の制御装置兼、演算装置に視線を向け、霊力抑制率をゼロにする。
そして、浄界章のエネルギーに負けない様霊圧を纏い、その巨大な石の上へと降り立った。
膨大なエネルギーを放つ石に手を置いて、同じ力をその場から探る。
霊力を放出し、全てを探索へ回すと、七十を軽く越える反応が返ってきて、息を吐いた。
憂鬱になっても仕方ない。
先に封印しておかないと、面倒事になるのは目に見えているのだから。
意識を集中させ、周囲の霊子と同調する。
「東の水竜、西の風虎、南の火鳥、北の土亀。刹那、我に隷属し力を貸し与えよ。”四神封印”」
鬼道でも回道でも無い、特殊な言霊を唱えると、身体から凄い勢いで霊力が抜けていく。
それと同じスピードで、浄界章が封印されて行くのを、意識の中で確認する。
最後の一つまで完全に力を抑え込んだ時、自身の創造した華奢な腕飾りが表示した残り霊力は12%だった。
完全にオリジナルの、しかも曲がりなりにも神を隷属させるこの術は、霊力の消費率が半端ではない。
その代わり、作業効率は良いし正確な上、普通にするよりもずっと強力。
浄界章の紋章が完全に消えた事を見届けて、私は上の保管庫へ戻った。
そこへ、破壊音。
突風が吹いて、その霊圧で、奴が来た事を察知する。
とはいえ、今の霊力での戦闘は出来れば避けたい。
タイミングが悪いと心の中で悪態を吐くも、風の刃は目の前に迫っていて。
私は集束させた霊子の刀でそれを弾いた。
「浄界章がっ!貴様、何をした!!」
白髪に赤目のその男は、紋章の消えた巨大な石を見て、私に殺気を向ける。
「何って…封印?」
その殺気と怒り狂った霊圧を、受け流せる程度にはまだ私は元気らしい。
何処と無く頭がぼうっとするのは…出来れば気のせいだと思いたい。
「封印、だと?!この超エネルギー体を此処まで封印したというのか?!何者だ貴様」
「さぁ、何者でしょうね」
飄々と返しては見るけれど、つと額から汗が流れて、足元がふらついた。
あの術の反動は身体への負担。
此ればかりは天照でも完全に回復させる事は出来ないらしい。
とは言え、彼女を宿す私でなければ、人の形を保っていられるかどうか、怪しいところだけれど。
「ふん。封印で力を使い果たしたか。ならば此処で殺してやる!」
「させねぇよ」
迫る風の刃が、氷の壁に阻まれた。
いつの間にか、嗅ぎ慣れた彼の香りに包まれて、安堵する。
「冬獅郎。眠い」
「ちょっと待てよ。もうすぐ…「狩矢!!」
「…来たな」
現れたのはオレンジ髪の死神代行と、黒髪眼鏡の几帳面そうな滅却師。
「あれ?あんた確か今朝白哉と一緒にいた…瑞稀玲…さん、だっけか。つか、冬獅郎?!お前なんかめっちゃデカくなってねぇか?!」
「日番谷隊長だ!」
「黒崎!そんな事を言ってる場合か!」
かっとブラウンの瞳を見開く代行にくすと笑う。
近くで覗き込まれた翡翠の瞳にふわりと笑みを零して。
「あの子、可愛いね」
なんて呟けば。
表情の消えた冬獅郎から冷気が立ち昇り、滅却師が言葉を失い、敵である筈の狩矢はくっと笑い、言われた本人は心外だとばかりに巨大な斬魄刀を此方に向けた。
「てめ、男に向かって可愛いはねぇだろ!可愛いは!つーかなんで冬獅郎とくっ付いてやがる?!付き合ってんのかてめぇらぁ!」
彼の付き合ってんのか、という言葉はいまいち理解出来なかったけれど。
私は冬獅郎の腕からするりと抜けだして、すとんと彼の前に降り立ち、顔を近付けた。
途端に蒸気が出るんじゃないかと思う程真っ赤に染まる顔。
「ほら、可愛いじゃない」
にっこりと微笑むと、僅かに頬を染めた滅却師が成る程、と頷き。
代行はずざざっと音がしそうな程のスピードで私から距離を取る。
「かかかか揶揄ってんじゃ、ねぇ!もし、そうじゃないとしてもだ!場所と状況をよーく考えろ!」
「うん、揶揄ったんだけど」
くすと笑うと、彼はがしがしと頭を掻きむしった。
「だー!俺はお前嫌いだ!」
「そう?残念」
悄然と落ち込んだ、ふりをしてみると。
「いや、嘘だ。嫌いじゃねぇ!寧ろ…「寧ろ、なんだ?」
慌てて私を慰めようとした死神代行は、首元に突き付けられた氷輪丸に冷や汗を流して言葉を止めた。
「…冬、獅郎…」
「日番谷隊長だと、何度言わせるつもりだ?」
「ハイ、ヒツガヤタイチョウ」
がくがくと手を上げて降参の意を示す代行に、冬獅郎は氷輪丸を鞘に収めた。
「なら、そのバウントを頼む。玲、行くぞ」
「あら、もう少し遊びたかったのに」
「お前な。一応、敵前だぞ?」
そんな会話をしながら、さらりと去ろうとしたのだが。
「その女は逃がさんぞ!」
バウントの霊圧が跳ね上がり、暴風が保管庫を破壊する。
「狩矢!てめぇの相手は俺だろうが!」
死神代行の斬魄刀から月牙天衝が放たれて。
その場はあっという間に戦場と化す。
私は黙って、他の場所にまで被害が及ばない様結界を張って、その場を離れた。
ふらつく足で如何にか銀髪の青年の背を追っていると。
ふと、彼が足を止めて、呆れたように溜息を吐いた。
「俺に無茶をするなと言ったのは誰だった?」
そう言えば、そんな事を言った気がする。
なんと返そうかと迷っていると、ふわりと身体を抱えられて。
「ならお前も、黙って無茶はするなよ」
思いの外優しい声音に、静かに頷いた。
熱でぼぅっとする頬に、冷たい手が添えられて。
それが酷く心地よくて私の意識は落ちていった。
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