Chapter2 〜天賦〜

十番隊の隊主室に着くと、砕蜂さんが一歩下がったので、私が扉を叩く。
「瑞稀です。少し…
言い終わらない内に、冬獅郎が勢いよく扉を開けた。
「玲!彼奴に何もされてないか?」
もの凄い剣幕で問うてくる冬獅郎に、私は首を傾げる。
「何かって…何されるの?」
「だから…
そこで、冬獅郎はやっと私の後ろに砕蜂さんがいる事に気付く。
一つ二つ、深呼吸して自分を落ち着かせた彼は、砕蜂さんに視線を向けた。
「…送ってくれたのか」
「一人にさせる訳には行かぬからな」
「礼を言う。用はそれだけか?」
「あ、駄目だよ、冬獅郎。私お茶貰いに来ただけなんだから。だからすぐ…
「あー!あんたが玲?昨日から気になってたのよ!やっぱり可愛いわねぇ」
そんな大きな声と共にふわりと金の髪が靡いて、私は息が出来なくなった。
顔を上げると、銀灰色の大きな瞳と目があった。
「松本、副隊長…苦しいです…」
思い切り抱きしめて来る彼女に抗議すると、綺麗な顔がむっと歪む。
「隊長には普通に話すのに、私には敬語なの?乱菊で良いのよ。わかった?」
「…わかった、から…じゃあ乱菊、離して」
再び抗議すると、笑顔で開放してくれるお姉さん。
一気に空気が肺に入って、少し蒸せる。
「騒がしいな」
「…いつもの事だ」
後ろで砕蜂さんと冬獅郎が、呆れを孕んだ眼差しで乱菊を見ていた。
「で、お茶がなんだって?」
私が落ち着いたのを見計らって、冬獅郎が口を開く。
「あ、うん。お茶を貰いに来たの。六番隊の隊主室、茶葉も置いてないみたいで。買いに行くのは私一人じゃ行けないから」
「そうか。今日は向こうに居るのか?」
「そのつもりだけど…」
答えると、冬獅郎がすこし寂しそうな目をした。
「なら、定時になったら此所に来い。部屋に案内してやる。松本」
「はぁい」
彼の声で、乱菊が隊主室の奥に消える。
それを見送ってから、砕蜂さんが首を傾げた。
「部屋に案内すると言ったか?ならば昨夜はどこで寝たのだ?」
「白哉のお屋敷…です」
「…そうか…」
少し気の抜けていた私が、語尾を補足したことには触れず、二人は複雑な表情を見せた。
「…名前で呼ぶようになったのか」
目を逸らしながら呟く冬獅郎が途轍もなく可愛いと感じるのは私だけなんだろうか。
ぎゅって抱きついて頭を撫で回したい。
絶対怒るからやらないけど。
というか、身長が伸びた彼の頭には、簡単には手が届かないし。
やっぱり、小さいままが良かったかな。
なんて、一人考えていると、冬獅郎と目が合った。
「…彼奴の方が…いや、何でもない」
何か言いかけて、砕蜂に目を移し、口を閉じる冬獅郎。
翡翠の瞳は翳っていて、何か言わないといけない気がするのに、なんて言っていいか分からない。
そこに乱菊さんが包みを手に戻ってきて。
「ほら、玲。どうせだから半分ほど移し替えたから持って行きなさい。後、お茶菓子も包んだからね?」
「わぁ、ありがと、乱菊」
自然に笑顔になって受け取ると、また乱菊に抱き締められた。
「あ〜やっぱり可愛いっ!ねぇ、玲?六番隊にそれ置いたら戻ってきなさいよ。私とお話ししましょ?」
彼女の言葉に、冬獅郎が微かに反応したのが目の端に映った。
そっか、単純に寂しいのかもしれない。
身体は大きくなっても、急成長した魂魄に、心が付いて行ってないのかも。
なら、彼の瞳の揺らぎが何と無く納得できる。
「うん、分かった。じゃあ、午後になったらこっち来るね」
気付かないふりをして、乱菊に微笑むと彼女も嬉しそうに笑った。
「本当?待ってるわ。なら、仕事早く終わらせなくちゃ。ね、隊長?」
冬獅郎を振り返り、ウインクしてみせる乱菊は、かなり察しがいいのかもしれない。
「…お前…昨日は日が傾くまで来なかった癖に…」
どの口が言うんだ、と続ける彼は素直じゃなくて。
そんな中解放してもらった私は、包みを持ち直して、声を掛けた。
「じゃあ午後にね」
まだ何か言いたげな冬獅郎にくすりと笑うと、罰の悪そうな顔をして目を逸らした。
「あぁ」
見た目銀髪翡翠眼の美青年なのに、保護欲唆るの止めてもらえないだろうか。
なんて、流石に口に出来ないので、待ちくたびれた様子の砕蜂さんに一言謝って六番隊へと戻る。
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