Chapter11 〜化身〜





冬獅郎は修行場所で、闇雲に鬼道を放っていた。

他の死神達は休息の為に各部屋に戻っている時間。

この場には自分の他に誰も居ない。

否、一人居る。

認めたくは無いが、彼も気が気じゃ無いのだろう。

こんな焦燥にも似た感情に支配されている間は眠る事など出来はしない。

転換率と集束率は確実に上がっている。

数十撃ってやっと数字が上がるか上がらないかと言う上昇率だが、それでも確実に。

だが、波紋を生む心ではコントロール仕切れずに暴発させそうになったりもする。

自分の霊力が飛び抜けているのは、この修行でもよく分かった。

疲れ難さが他の死神と段違いなのだ。

その代わり、威力も他とは違うのか、一度爆発させて周囲が消し飛んだときは驚いた。

勿論傷だらけになって、玲が置いていった回復薬を飲まされたが。


手掌から鬼道を放とうとした時。

腹に響くような轟音がして、玲が居た空間が崩れ落ちた。

気が逸れて暴発させそうになった霊力を必死にコントロールして的へ放つと、崩れたそこへ駆け寄る。


「玲!」


「大丈夫。ちゃんと終わったよ」


何時もの彼奴の声が聞こえたと同時に、岩が消滅して、玲が姿を現す。

その大き過ぎる圧に、膝を着きそうになって、慌てて霊圧を解放した。


「あ、ごめんなさい。封印し忘れてた」


どうもそれが無意識に溢れる物だったらしく。

此方に気付いて慌てて封印率を上げる玲の雰囲気が変わった事に気付く。


「何か雰囲気変わったな」


見た目は変わらない。

表情も反応も変わらない。

変わったのは彼女の内面。

溢れ出す力の質。


「…あは。私ね、神様だった」


「もう驚いてやらねぇよ」


「え、酷い。自分でもちょっとびっくりしたのに」


そんな風にいつもと同じ調子で掛け合いをする玲の手には、白銀に煌めく刀。

鍔に付いている翼の様な装飾が酷く目を惹く。


「それは?」


「この子は泡沫。現実と夢の境、世界の理を捻じ曲げる力。あ、ちゃんと月読も屈伏させたよ」


危険な発言をした後、ふわりと笑って後ろを振り返る玲。

其処には、長い黒髪に紅い瞳の不機嫌そうな男が居た。


「煩ぇ。力は貸すが、負けは認めねぇぞ」


「そう。泡沫、天照。この子ちょっと創り直そうか」


「待て!今のてめぇが言うと冗談に聞こえねぇ!」


「半分本気だよ?」


「冗談じゃねぇ!ふざけんな!」


騒ぐ玲と月読に、冬獅郎は一つ溜息。

すっと現れた白哉が、黙って玲を抱き締める。

それを、複雑な心境ながらも見守れる様に成ったのは、成長した証だろうか。

こんな苛々する成長は本音を言えば要らないが。


「白哉?」


不思議そうに首を傾げる玲が、彼奴の様子に気付いて。


「ごめんね」


優しく謝る姿を見ていられなくて目を逸らした。

同じ様な感情を、彼奴も感じているのだろうかと、恋敵に僅かに憐憫を覚えながら。



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