Chapter4 〜華奢〜





騒がしい庭へ降り立つと、隊長の趣向で美しく作られていたそこは地獄絵図と化していた。

と言っても、其処此処に隊士が蹲って呻き声を上げているぐらいで、流血はほぼ皆無。

恐らく全員が殴り倒されたのだろう。


「よぉ、やっと来たか」


その中心に、にやりと笑みを浮かべて仁王立ちする巨漢。

肩に乗っかっている小さな女の子が酷く浮いている。


「…更木。隊務中にこの様な騒ぎを起こして、よもやただで済むとは思っていまいな」


すぐ隣で、冷たい声音が放たれる。

何処と無く怒気が混ざっているのは、自身の隊士を懸念してなのか、それとも、木枝を折られ、ボロボロになった庭を憂いてなのか。

流石にどちらとは判別付かなかった私は苦笑して、斬魄刀に手を掛けた彼の手に、手を重ねる。


「白哉。今抜いたら、隊士さんも庭も、もっと悲惨な事になるよ」


小声で彼を諌めると、柄を握る手が少し緩む。


「わぁああ!綺麗な人〜!剣ちゃん、これが瑞稀って人〜?」


更木の肩から乗り出した桃色の髪の女の子…草鹿やちるが場に似合わない声をあげた。


「あぁ、だが、気に入んなよ。今から斬るんだからな」


「えぇえ?!こんな綺麗な子、斬っちゃだめだよ!可哀想だよ!!」


…どうして斬られる前提の会話になっているのかは一先ず置いておいて。

私はすっと手を前へ差し伸ばした。


「…天照。前方の損害箇所を捕捉。治癒及び復元せよ。”天女の施”」


言葉と共に私の指先から虹色の光が溢れ、その光に触れた場所が全て復元され、傷は治癒される。


「ほぅ…」


興味深そうに此方を見ていた、男の目が細くなり。

隣の白哉は複雑そうに眉を寄せた。


「玲、全て治してしまっては損害報告が出来ぬであろう」


その言葉で、彼の表情の意味を悟り、苦笑する。


「でも、庭も大事でしょう?」


「…そうだが…」


完璧に元の風体を取り戻した庭と、不思議そうに身体を起こす隊士達を見て、彼は小さく溜息を吐く。


「今回だけ、見逃してあげても良いじゃない?で、十一番隊の隊長さん。何しに来たの?」


「ああ?てめぇを斬りに来たに決まってんだろうが」


刀を肩に掛けた彼は、さも当然のことの様に答える。


「もしかして昨日の事根に持ってるの?」


「そんなんじゃねぇよ。お前は強そうだからな。斬ってみてぇだけだ」


当たり前だろとでも言いたげに此方を見るが、その台詞はどう捉えても唯の戦闘狂だ。


「…ねぇ、これであの隊回ってるの?」


こそっと隣に問い掛けると。


「回ると思うか」


忌々しそうに眉間の皺を刻む白哉を見ると、どうやら他の隊にまで被害があるらしい。

なら、少し考えが無いわけでもないのだけれど。


「ん、じゃあちょっと総隊長の所に行ってくるね」


こそっと白哉に耳打ちすると


「…そうか。怪我はするな」


同じく小さな声で心配してくれた。


「大丈夫!」


「ああ?てめぇ逃げんのか?」


此方の動向に気付いた更木が、不機嫌な声を発するが、


「此処じゃ迷惑でしょ?追ってこれたら考えてあげる」


くすりと笑ってそう切り返し、瞬歩で一番隊に向かって駆けた。

そういえば、白哉の紗、借りっぱなしだけど大丈夫かな。

風にはためく綺麗な布に、今更ながらそんな心配を抱きながら。



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