Chapter1 〜淫呪
あれから一年が経った。
死神化…というより仮面の軍勢化した元破面連中は、尸魂界に入り、一般隊士に下落。
しかし、元々帰刀=斬魄刀の卍解と同じような状態だったらしく、すぐさま始界、卍解を習得し、隊長格と同等の存在となる。
それは市丸や東仙、総隊長に今回の功を持って過去の一切を許された浦原と四方院に関しても同じことだった。
四十六室が壊滅して未だ復旧の見込みがない以上、その飽和戦力をどうするかは総隊長に権限が降りてきている。
この世界をここまで変えた光のような存在のことの記憶が、総隊長にだけは残っているらしく、新たに隊長付という特別枠を設け、飽和戦力を各隊に振った。
そういうわけで、今は一番隊の隊長付にティア・ハリベルが、二番隊は砕蜂が当然のように隊長枠を四楓院に明け渡し、自身は副隊長に、隊長付にティア・ハリベルの従属官だったスンスンを受入れ。
三番隊の隊長は市丸が収まり、隊長付にコヨーテ・スタークが、五番隊の隊長に平子、隊長付に猿柿が、六番隊の隊長付にグリムジョー・ジャガージャックが振り分けられた。
七番隊には隊長付に同じく従属官だったアパッチ、八番隊隊長付に矢胴丸、九番隊については六車が隊長となり、東仙が副隊長、隊長付に久那白。
檜佐木は三席に降り、今は精霊邸通信の編集長をやっているらしい。
そして十番隊のここにも隊長付としてウルキオラ・シファーが配属され。
十一番隊の隊長付に従属官のミラローズ、十二番隊は浦原が涅を殺す手前まで追いやって、隊長になり、涅は副隊長に落ちた。
十三番隊は朽木ルキアが副隊長となった。
愛川羅武が十二、鳳橋楼十郎が十三の隊長付だ。
隊長付の仕事は、一介の死神の相手にならないような虚や敵を消滅させること。
元破面だった連中の斬魄刀に関しても、死神化した際に性質は死神のものと同一になっており、浄化に支障はないらしい。
そのおかげで現世に行って虚を倒す等の任務は急激に減ったのはいいのだが。
相変わらず眉の一本も動かさない鉄面皮のウルキオラと同じ職場なのは正直疲れる。
未だ左腕に霊力を宿したブレスレットがあり、それが名前すら分からなくなってしまった光のような存在が居たという証だった。
氷の刻印が彫られたそれを見ると酷く胸が疼く。
相手がどんな人間だったかも、どんな存在だったかさえ、何一つ思い出せはしないというのに、心だけがずっと相手を想い続ける。
それがどういう感情なのか、はっきりわかっている自分がいる。
だから、他の女は近づけないでいた。
少年の姿から青年の姿へ成長を遂げた俺に対し、様々な声が掛かったが、考えるまでもなく断り続けていた。
それはいつか戻ってくるという期待からなのか、それとも失恋を引き摺っているのかはよく分からない。
だが一つだけ確かなことがある。
この左腕のブレスレットに霊力が灯っている限り。
彼奴は世界のどこかで生き続けているということだから。
守りたいと思った。
守れるように強くなりたいと。
しかし結局藍染との決戦で功を挙げたのは市丸だった。
その一撃を与えるための隙を作る程度には、俺の力は役に立ったのだろう。
だがそれでは足りうるはずもない。
だから俺は、休憩時間にいつもそこへ通う。
精霊邸の岩山に開いた、特別修練場。
時間軸がずらされ、膨大な力が修行を手助けしてくれるその場所へ。
ここも彼奴が作ったのだろうと思うと、そこにいるだけで心が少し安らぐから。
「総隊長」
「来たか。ならば始めるかの」
「ああ」
俺の修行の相手をしてくれているのは、一番の天敵であり、本来なら決して敵わなかったはずの総隊長。
その斬魄刀の炎は俺の武器である大気中の水をいとも容易く蒸発させる。
しかし、それでも。
四界氷結を持ってかの斬魄刀の炎をも凍らせられるぐらいに強くならなければ、彼奴の隣に立つことは出来ないと、そう思うのだ。
彼奴が俺を成長させてくれたから、氷の花が散りきった後でなければ使えなかった四界氷結はいつでも自在に使えるようになった。
最近では自身の霊力から水を作り出すことが可能になった。
それは一番隊隊長付のティア・ハリベルとの修練の成果だ。
どれだけ声を枯らせばお前に届くだろうか。
どれだけ力をつければお前を取り戻すことが出来るだろうか。
きっと彼奴も同じようなことを考えているのだろうなと、恋敵の姿をふと思い出して、かき消した。
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