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お蔵2021/02/27
なんか、一年くらい前に書いてたワンパンマンのやつ、どうしていいかわからないままずっとメモに残ってたから供養します。
基本情報:夢主はS級ヒーローで人造人間でくそビッチ。
多分シリーズ物感覚で書いてたから話の順番がわからん。適当に載せます。



*

ジェノスの唇は、やわらかいのかな。
ふと湧いた疑問。肉体のほぼ全てがサイボーグの彼。辛うじて頭部は人間らしいのだが、眼球ですら機械だし。
人差し指を伸ばし、頬をつく。ふに、と肌がしずんだ。

「あ、やわらかい」
「当然だ。クセーノ博士が開発した人口皮膚は」
「その話は別に聞かなくていいや」

どうやらほっぺたは何ら人間と変わりない模様。机に向かってカリカリカリカリなんの勉強をしているのか、必死になってノートをとっているジェノスの頬を、ふに、ふに、と私も必死になって触っていると、ついに手を払われ「邪魔をするな」と怒られてしまった。

「だって〜」
「俺は今日記を書いているんだ。見てわからないのか」
「んー…」

勉強してるのかと思ったら日記なんだ。なにやらサイタマぽい絵に色々書き込んでいるから、なんか勉強でもしてるのかと思ったけど。
今の技術ってすごいな。人間としての機能がほぼなくなっても、生きていけるような肉体を作り出すことができるんだから。
そして勉強をしたり、怒ったり、こんなにも、こんなにも人間らしい姿でいることができる。

「ねージェノス」
「さっきから、少しは黙っ」

私がしつこく話しかけるものだから、呆れた顔でジェノスがこちらを振り向いた。と同時に、ぐんと私は顔を近づけ、キスをした。ジェノスの唇は冷たい。でも、とても柔らかい。
ムードも何も無い。私は目を閉じることもせず、今までで一番近い距離で、ジェノスのことをまじまじと見た。こんなに近いと、頭部のサイボーグ部分が動く微細な音も、聞こえる。
抵抗をされる前に、さっさと顔を離すことにしよう。

「ねえ、どんな感じ?」

私の唇にぬられていたグロスがジェノスの唇にもついていて、てらりと艶やかに光った。気にもしていない、という様子だったが、目を伏せながらそのグロスを拭う姿に、私は僅かにジェノスの動揺を感じ取った。

「どんな感じと言われても」
「嬉しかった?」
「…その質問に答える必要はあるのか」
「ないよ」

ジェノスは可愛くない男だなあ。
ゴロリと寝転がり、ジェノスの硬いサイボーグの背中を足でゲジゲジと軽く蹴っていると、ただいまーと気だるい声とともに、玄関があいた。

「サイタマおかえりー」
「先生!お疲れ様です!!」

この家の家主、サイタマは産毛1本生えていない見事なハゲ頭をぼりぼりと掻きながら、そのままキッチンへ向かい冷蔵庫をあける。
スーパーに買い物に行っていたようだ。たまごとか、ジュースとかを雑にしまっている。

「ねーサイタマ、ジェノスって私の事好きだよね?」
「はあ?なんだそれ」
「サイタマ先生、無視をしてください」
「無視きらーい。やだー」

ドカドカと、わりと強めに背中を蹴るとさすがに我慢ならんかったのかジェノスは舌打ちをしてサッと立ち上がった。
そして私の洋服の襟元を掴むと私の首がしまるのもおかまいなしに軽々と私を持ち上げ、玄関まで連れていくと

「マジかよ!」

荷物も靴も、おまけに私自身も外に投げられた。
なんて非道なんだジェノスよ。
ちぇー、と、年齢不相応に頬をふくらまし、雑に投げられた結構値の張ったヒールの高いパンプスを履き、バーキンのパチモンのような安いバッグを手に取りアパートの階段を降りていく。
カンカンとヒールが鳴る。結構この音嫌いな人多いけど、私は好き。きっとジェノスはこの遠ざかる音を聞いて、今頃ため息をついていることだろう。
最初こそサイタマの友達ってだけで優しく接してくれていた彼だけど、だんだん扱いが雑になってきた。
どうしたらまたあの優しいジェノスに戻ってくれるのかな。
うーんと首を傾げていると、ポケットに入っていた携帯電話がなる。折りたたみ式の端末を開くと画面にはヒーロー協会とかかれていた。

「もしもし?え、怪人ですか?ヤですよ。え?鬼?知らね」

電話の向こうではなにやら騒がしい。どうせジェノスにも連絡いってるだろうしそしたらサイタマ動くだろうしじゃあ私行かなくても全然いい案件だ。ピッと無理やり電話を切って、すかさず電源を落とした。

「ジェノスってちんこあんのかなあ…」

そこもサイボーグとかなのかなあ。今度聞いてみよう。



*

「ゾンビさんに相談があるんだけどさ…」
「…嫌な予感がするが一応きいてやる。なんだ?」
「番犬マンとセックスするにはどうしたらいいと思う?」

午後の昼下がり。私とゾンビマンはQ市のとある喫茶店でお茶をしていた。

「なぜそれを、俺に相談するんだ?」
「…S級ヒーローだから?」
「くだらねえ」
「すごいと思うんだよね。だってケモノじゃん。てかケダモノ?」
「ケダモノはお前だろ」

あー腰いて…とおじいちゃんみたいにゾンビマンは腰を叩いた。不死身の男が腰のふりすぎで腰痛になることなどあるのだろうか。あいにく私は絶倫だけど不死身ではないのでわからない。
じーっと見ていると不思議に思ったのか、ゾンビマンも私のことをじーっと見て、おまけに私に向けてタバコの煙を吐き出すものだから、煙がすうっと鼻に入ってきて、思わずむせた。

「あ、すまん」
「ううん、大丈夫。ゾンビがタバコ吸うところ、かっこよくてすごく好きだから、全然平気」
「…お前よくそんなこと言えるよな」
「本当のこと言わなきゃもったいないでしょ」

ゾンビマンの吸うタバコを奪い取って、私も一口、そして仕返しのように彼の顔を目掛けて煙を吐いた。
彼はすっごく嫌そうな顔をして、私からタバコを奪い返すとピンクのリップのついたタバコを、また口に含む。

「お前はこんなもん吸うんじゃねえよ」
「ゾンビはいいの?」
「俺はいいんだ」

そっかー。ともうすっかり冷めてしまった紅茶を飲んで、ふ、と息をつく。あれ、なんの話してたんだっけ。

「あ、そうだ。で、番犬マンなんだけど」
「その話はもういい。俺は仕事だ」
「真面目だねえ」
「お前が不真面目すぎる」

真面目に働いたら番犬マンも相手にしてくれるんじゃねえか?と皮肉たっぷりに、また紫煙を顔に向けて吐き出され、目にしみてしばらく涙が止まらなかった。



*

「あ、バッドくん!やっほー」
「げ」
「げ。とはなんだい、げ。とは」

ご自慢のリーゼントが揺れる。協会本部に呼び出しをくらい、来なければ今月の給料はなしと脅されたためすごすごとやってきたが、大正解だ。
協会のエントランスでばったりS級ヒーローの金属バットと会えて、私の瞳は輝いた。

「お前といたらロクな噂たたねーんだよ」
「あは、週刊チューズデーされちゃったもんね!ゼンコちゃんのお耳には入らなかった?」
「ああ!?お前あの記事もみ消すのに協会がいくら払ったと思ってんだ!」
「バッドくんがいけないんだよお?男は誘惑に負けちゃダメなの」

人差し指でつん、とバッドくんの胸元をつけば、バッドくんの肩が跳ね上がり、おまけに顔まで赤くなる。

「大丈夫。あの写真撮った男は私がもう食べちゃったから」

明るく言うと今度はみるみる顔が歪む。見ていてとっても面白いバッドくんが、私は大好き。

「ふふ、冗談だよ」
「ちっ、ふざけんじゃねえ…この野郎」

金属バットとはこの前ついうっかり二人でホテルに入るところをパパラッチに激写されてしまったのだ。バッドくん高校生なもんだから協会は色々そのネタをもみ消すのに苦労したようだ。
私はその記者を(絶対に内緒だけど)パパラッチなんてできないくらいにボコボコにしたからもうしばらくはそんな心配もないだろう。

「今日はもう帰るの?」
「これから妹と買い物の約束が」
「私も行く」
「あぁ!?誰が連れていくか!!」
「えー…まあ、ゼンコちゃん私のことを嫌いだしね」

以前いつものようにバッドくんを茶化していた時、偶然ばったり会って物凄い嫌な顔をされたのを思い出した。
そこは大人らしく淑やかに挨拶を決め込んだが、小学生にも私の悪評は轟いているらしい。

『噂は聞いてます!もうお兄ちゃんには関わらないで!!』

あの言葉はキツかったな。心が昇天しそうになったもんね。その言葉を無視して堂々とこうしてバッドくんとは関わっているわけだけども。
私ってば女性人気も皆無、キッズ人気も皆無。顔が良くてよかった、男性人気は上々だ。

「…俺はもう行くぜ」
「バッドくんは、もう私とは遊んでくれない?」

あからさまに、悲しいです。という顔したら、バッドくんは気まずそうに、視線を私から逸らす。おまけに寂しいな、と言葉を足せば、バッドくんはいたたまれない様子でガシガシと音がなるほど頭をかいて、私から少し離れるといつももってる金属バットをまるで指を指すように私に向けた。

「飯くれえならいつでも行ってやる!だがもうあんなことは二度とごめんだ!」
「…あは、バッドくん、だいすき」
「そ、そういうことを恥ずかしげもなく言うんじゃねえ!」

コノヤロウ!と悪態をつきながらバッドくんは私に背を向け歩き出した。
ふふふ、本当にバッドくんて可愛くて面白くて、すき。
ぺろりと唇をひと舐め。ゼンコちゃんには本当に悪いけど、関わることはやめられそうにない。

「また魔女が男狩りしてるよ」
「しっ!聞こえるよ!」

金属バットが去ってからまもなく。ヒソヒソと嫌なくらい耳に届く声が聞こえ、私は聞こえないふりをしながらロビーにあるソファに腰掛けた。

「前は黄金ボールだっけ?」
「え?!スティンガーでしょ?」
「私キングって聞いたけど…」

まじ!?と時に大きな声で、クスクスと笑いながら女性3人組は会話を盛り上げていく。
大方、出待ちか入り待ちをしている誰かのファンだろう。

「まじ見境なさすぎ」
「ヒーロー全員やられてんじゃない?」
「アマイマスク様はないでしょ!」
「確かに〜」

いやさすがの私もヒーロー全員いただくようなそんなことはしてないってかちゃんと見境はあるつもりなんだけれど。あ、でも未成年に手を出してる時点でダメダメなのか。

「本当になんであんな女がヒーローしてんの?怪人倒したとか聞いたことないよ?」
「そりゃ決まってんじゃん、枕でしょ!」
「有り得るー!」

ケタケタ笑って本当に下品なことだ。私たちヒーローはあんな女も守らなければならないのかと思うと反吐が出るね。まあ私全然ヒーロー活動してないけど。

「ほんと、ブスはうるせーわ」

先程まで私の事で楽しそうに談笑していたミーハー女子はピタリと会話をとめる。
まさか聞こえていないとでも思っていたのか、3人の顔がさっと青ざめていくのが見えた。

「あ、時間すぎてる」

ちょっとのんびりしすぎたか、本部との約束の時間を一時間も過ぎていた。つまりここに来た時から大遅刻をしていたという訳だ。どうりでさっきから携帯がブルブル震えているわけだ。
私はソファから立ち上がり、高級ブランドの靴のヒールを鳴らしながら、わざとに女の横を通り過ぎる。私への文句はこの靴を履けるようになってから言ってもらおうではないか。そんな牽制もこめて。

「この、来ていたのか!!いつまで待たせる気だ!!」

しかしそんな時に今日呼び出した幹部の男がエントランスに降りてきて、私に向かって大きな声で叫んだ。
あ、カッコ決まらない。こいつ、後で殴ろう。



*

某日、てか今。私はS級ヒーローアトミック侍を前に、土下座をしている。

「お前、ついにイアイに手を出したそうだな」
「いえ!誤解です!ほんと!私あなたの弟子、手は出さない!決めてる!約束!」

あまりの恐ろしさについ日本語がカタコトになってしまう。殺される。まじ殺される。

「なんでじゃあこんな記事が書かれてるんだ?あぁ!?」
「そ、それは!!」

どさっと私の目の前に投げられたのは雑誌。開かれたページにはモノクロページながらも確かに私とA級ヒーローイアイアンの2ショット写真が載っていた。
その写真はまさにイアイくんのマンションへ2人で腕を組み仲睦まじく帰っているような、そんな写真だ。

「違うんです!こ、これは!」
「俺、お前に言ったな?俺の弟子に手を出したら、容赦はしねえってな」
「おっしゃっておりました!おっしゃっておりましたとも!だから私は何も!」
「イアイは何も覚えていないらしい。お前が何が仕掛けたんだろう」
「二人で酔っ払ってただけなんです!お店まではカマちゃんも一緒にいました!私はイアイくんを介抱してあげてただけで!一人じゃ帰れないなんてくっそ可愛いこと言うからつい!」
「つい?」
「はっ!!」

しまった!と口をふさぐ。
覚悟はできてるんだろうな、と刀を抜く金属音がまるで私の脳みそを貫くような恐怖を与えた。
ていうか、貫かれる。

「みっ未遂です!!未遂!!ちょっとボディータッチしちゃったけどチューの1つもしておりません!同じベッドで寝ちゃったけどイアイくん爆睡だしなんにも!断じて!なんにもしておりませぬ!!」
「問答無用!」
「ぎゃああああ!!!」

斬撃が床を砕く。なんでやねん。私が今さっきまで額をこすりつけていた床が粉々になり無くなっていた。
アトミック侍の攻撃なんて食らったらさすがの私も骨くらいは折れるかもしれない。
避けられたのが気に食わなかったのか侍は大きく舌打ちをし、また刀をかまえる。

「私を殺す気か!」
「殺しはしねえ。二度と俺の弟子に近付けねえようにするだけだ」
「イアイくんからのお誘いでしたが!?」
「ああ?そんなわけねーだろ!」
「ビリーブミー!!」

まるで核弾頭のような攻撃をなんとか避けながら逃げる。アトミック侍の攻撃は早い上に威力が半端ない。避けつづけるにも集中力がもたない。さあ、どうやって切り抜けるか。ていうか、

「まじで私殺す気でしょ!?なんか本気じゃないスか!?これ本気だよね!?」
「逃げてばかりじゃつまらねえだろうが。反撃してこい!」
「ひぃぃ!!」

「っ師匠!やめてください!」

その声と共に、攻撃がピタリと止む。

「イアイ」
「師匠、彼女の話は本当です」

息を切らしながらやってきたのは渦中の男、イアイアンだった。
助かった!と安堵の息を漏らすと首に冷たい感触、あてがわれたのは刀だ。
ひ、と情けない声がでる。アトミック侍は、まだ私のことを信用していないようだ。イアイアンが来たからと、油断した!

「彼女は本当に、泥酔した俺を介抱してくれただけです」
「…こいつには関わるなと言ったはずだが」
「はい。だから彼女から声をかけてくることは今の一度もありません。俺が、声をかけたんです」

アトミック侍は私のことが大嫌いだから弟子達に私に近寄るなと釘をさしていたことは知っていた。ブシドリルとは関わったことないけど、それでもオカマイタチのカマちゃんとは結構仲が良くて、その流れでイアイくんとも少し関わるようになったのだけどまっさかこんなことになるとは思わなかったな。

「こいつと関わっても面倒事になるだけだぞ。こんな写真撮られやがって」
「…俺も男です。責任はとります」

ガシャンガシャンと鎧の音を鳴らしながらイアイくんがこちらへ来る。そしてアトミック侍に囚われ身動きが取れなかった私の両手をとり、目をじっと合わせてきた。
なんか雲行きが怪しいぞ。なんだこれは。

「結婚しよう」
「え…ムリ……」

そのままイアイくんはショックからかバターンと後ろに倒れて、私はそのままどさくさに紛れて逃げた。

次号の週刊チューズデーの見出しはこうだった。
『A級ヒーローイアイアン玉砕!?魂のプロポーズ、呆気なく敗れる!!』

私は余計にアトミック侍に嫌われた。



*

静かな暗い会議室で、淫らな水音が響く。

「く…も、もう…」
「ん、いいよ…、んんっ!」

口の中になんとも言えない苦さと独特な臭みが広がる。そんなものをごくっと飲みこんで下品なのもお構い無しに、レロ、と舌を出しその相手に見せると男は満足そうに私の頭を撫でた。

「…この会議室は今から僕が使用するんだが、君たちのような低劣な人間は出て行ってくれないかな」

扉の札を使用中に変えていたはずだが、その声の主はノックもせずに扉を開け、なんのお構いもなしに電気をつけて、まるでゴミを見るような顔で私たちを見た。

「ア、アマイマスクさん…っ!す、すみませんでしたぁぁあ!!」

先程まで私に偉そうにしてた男が急に萎縮して、ズボンのチャックを上げながら会議室から走って出ていった。
あまりのカッコ悪さに少しビックリしてしまったが、そもそも無遠慮に邪魔してきたこいつが悪いのだと、おじゃま虫のA級ヒーローを睨んだ。

「ここ、使わないって受付に聞いたけど」
「そんなことは僕が知ったことではない。早くその粗末なものをしまって出ていってくれ」
「粗末なもの…て、私のこのおっぱいのこと言いたいわけ!?は、はあ!?どこが粗末なのよ!」
「突き出すな。見るに堪えない」
「はああああ!!?」

自慢のおっぱいを粗末なものだなんて言われて殺意が芽吹くくらい腹が立つが、いかん、こいつとはそもそも話し合いなんて無駄、分かり合えるなんてとんでもないのだ。ささっと行為で乱れた服をなおして、大きく舌打ちをした。

「君は大した功績もあげていないのにいつまでS級の席にいるつもりだ?」
「いてくださいって言われてるからいるんだよ?」
「はっ!どうせ幹部の奴らと寝ているんだろう」
「でも私は強いよ。あなたなんかよりもずっと」

アマイマスクの顔に青筋が浮かぶ。面白い冗談だと、指の骨を鳴らしたと同時にその手は私の顔をというより目を目掛け、あと2mm、というところでピタリと止まった。

「面白い冗談ね。これ、脅しのつもり?」
「警告だ。次に何か問題を起こせば、僕は君を潰す」
「たかだか男と寝てるだけで問題だなんて、馬鹿馬鹿しい」
「君はヒーローにはふさわしくない」
「そもそも私、勝手にヒーローにされちゃったんだけどね」

くす、と笑うとアマイマスクは顔をゆがめ、美しく筋の入った手を鼻に当てた。

「口が臭う」

なんて腹の立つ男。

「ともかく、君のような人間はここにいるべきではない。早く出ていけ」
「やだね。私ちゃんとここを借りる手続きしたもの」
「あんなくだらない行為の為にこの会議室を使用、なんて通用すると思うか?」
「ちゃんとした手続き踏んだんだから何に使おうが勝手でしょ。じゃあ聞くけどあんたなんでわざわざこの会議室に来たのよ」
「君がここにいると風紀が乱れるんだ」
「風紀委員か」

やだやだ、こういう自分の正義感振りかざしてる自己中いるよね。反吐が出るどころか口からヘドロが出そうだ。
やっぱりこいつとは未来永劫分かり合えることなんてないのかなあ。とため息をつくと、カンに触ったらしく顎を思い切り掴まれた。あ、油断した。
アマイマスクたら、目が血走って、今にも私を殺してしまいそうだ。

「痛いんだけど」
「貴様は本当は怪人なのではないか」
「…どういう意味かな」
「そのままの意味だ。怪人に肉体を改造され、人智の及ばぬ力を手にした」

もうそれは立派な怪人だ。
掴まれた顎の骨がミシ、と嫌な音を立てる。
私は確かにもう
人間ではないのかもしれない

「っ!」

顎を掴んでいたアマイマスクの手首を掴み、ぐ、と力を入れると奴の顔が強ばる。
まあ、この世にはタツマキちゃんみたいなとんでも人間がいるからとりわけ不思議なことではないんだけど、私はちょいと肉体を改造されている。ちょっとやそっとじゃケガしないし、疲れることも知らない。サイボーグといっても、機械部分はほんの一部でほとんどの部分を有機的に改造された、言ってしまえば超びっくり人間なのである!

「私は強いよ。勝手に強くされて、勝手にヒーローにされたの。こんな勝手な世界で、私が一番勝手なくらいがちょうどいいのよ」
「戯言を」

アマイマスクは私が手を緩めた瞬間に私の手を払いのけると、まるでバイ菌にでも触れたかのようにハンカチで手を拭いた。

「ちょっと、傷つく」
「君と一緒にいると僕の評判まで下がりかねない」
「自分からここに来たくせに…」
「さっきの警告は本気だぞ。次になにか協会の脅威になるようなことがあれば」
「あ、はい。わかりました。はーい」

ひらひら手を振るとフン、とイケメンは鼻を鳴らして会議室を出ていく。どうやら本当に私に喧嘩を売るためにここに来たようだ。
にしても、
さきほど掴まれた顎を触る。
私の皮膚も肉も骨も、常人の何百倍もの丈夫さを誇るというのに、これなんか骨いわしてない?めちゃくそ痛いんですが。
やはり、自分は強いと自画自賛してるだけのことはあるか。人のことは言えないが。
顎をさすりながら時計をちらりと見ると次の約束まで時間がかなり空いていたので、まあ借りたんだし、とその場で遠慮なく眠ることにした。
そしたらさっきまで宜しくしてた協会の職員がひょっこり戻ってきて続きをしようとしたもんだから、二度と私に近寄れないようにボコボコにしておいた。



*

「あ、やだ、恥ずか…し…、こんな人がいっぱいいるところで…っ、あんっ」
「場所なんて関係あるの?俺達が今からするのは、ただの交尾だよ」

番犬マンは、人目もはばからず自身の大きく膨張した***をとりだし、恥ずかしいと言いながらもぬらりといやらしく光る**にあてがった。

「んう、あ、あ、いや…」
「うるさいな、黙ってろよ」

熱を帯びた***を***はいとも簡単に飲みこみ、***を***で*****…

「…待て、待て、もう喋るな」
「でも番犬マンと致すなら番犬広場で公開セックスだと思うんだよね」
「致すな」

頭が痛い、とゾンビマンを額をおさえた。
私達はまたまたQ市でお茶をしている。

「そんなに気になるなら話しかければいいだろう。奴はいつでもあそこにいるんだ」
「や、やだ!恥ずかしいよ…」
「こんなサ店で堂々と公開セックスとか言ってる奴が何言ってるんだ?」

本日何本目かもわからない、タバコに火をつけて、ため息をつくように煙を吐き出す。
やっぱこいつかっこいいな、顔色死ぬほど悪いけど。

「お前」
「ん?」
「そんなに色んなやつと関係持って面倒じゃないのか?」
「んー、でもゾンビマンは私のこと好きにはならないでしょ?私が遊んでるのはそういう人ばっかりだよ」
「なるほどな」

色恋沙汰なんて面倒くさいばかりだけど、性欲は発散したい。そんな人ばかりを私は選んでいる。ま、まあたまに初心な男の子に手を出したりはしているけど、ハマってもハマられても面倒な相手とは基本的には関係を続けることは無い。

「イアイアンに手を出さないのはそういうことか」
「アトミックがめちゃくちゃ怖いってのもあるけどね?」

ちょっとセックスしただけで責任問題!なんて時代錯誤すぎて困る。
そう思うと、ゾンビマンは一番いいお友達だ。冗談も通じるし、慣れてるし浮かれてないし何よりうまい。ちょっと体が冷たいけど。
カラカラと、綺麗な音が鳴るからストローで氷のはいったアイスコーヒーを回す。「行儀が悪い」とゾンビマンに手をおさえられ止められた。その時、

カシャッ

私たちが座っている席から少し離れたところで、カメラの音がした。
ゾンビマンと目を合わせる。ゾンビマンにもしっかり聞こえていたようだ。

「チューズデーかな」
「お前、よくつけられるな」
「人気者だから」
「嫌われ者だろ」

そう言い、彼は立ち上がるとカメラの音がした方へと歩き出す。その先にはキャップを目深く被った男がいて、ゾンビマンが近づいてくるとわかった瞬間に逃げるように立ち上がったが、気づくのが遅かった、彼にシャツの襟元を掴まれ、身動きがとれなくなっていた。
そのままその男がいた席に無理矢理座らせ、何かを話している。しばらくすると恐らくパパラッチだろう男は彼にヘコヘコと頭をさげ、彼も何か納得したようにその男に少し手を挙げて挨拶をした。
何を話しているのか、この距離では聞こえない。

「なに?なにしゃべってたの?」

戻ってきた彼に思わず怪しいと言わんばかりの顔をしてしまう。きっと可愛い顔ではない。こいつは楽しいのかなんなのか、なぜか珍しく笑っている。あまり見た事のない顔だった。

「俺とお前が正式に交際をしていると言った」
「へーすごいじゃん!………ん?」
「お前の思い通りだと思ったら大違いだ」
「ちょ、なにそ…んむ!」

言い返す言葉もなく、私はゾンビマンに頭をおさえられ、そのまま引き寄せられるとキスをされた。
カシャリカシャリとカメラの音が鳴る。
え、なにこれ
唇を離されて、彼の顔が全部見えるようになると、彼の顔は本当に面白そうに歪んでいた。

「な…に…?」
「俺もイアイアンと変わらないな」

もう一度、唇を塞がれて、思わず気持ち良さに意識がふわふわ浮かび出す。ああ、うん、こいつが彼氏でもいいのかもしれない。この時だけは、そんなことを思った。

「ちょ、ゾンビ…」
「うるせえな、黙ってろ」

それはさっき私が番犬マンとの妄想で使ったセリフと同じセリフだった。
いやらしい音を立てながらするタバコ味の大人のキスは脳みそが蕩けるほどに気持ちがいい。
だけど

「いっっ」

私は仕込んでいた隠しナイフを彼の脳天に突き刺した。きっとこの人がこんなことするなんてついに脳みそが腐ってウジでも湧いているに違いない。

「その冗談はちょっと面白くないよ、ゾンちゃん」
「…そんな顔して言われてもな」

彼は自身の頭部から流れてきた血を、ぺろりと舐めとり、私の目をじっと見る。どんな顔をしているのか、彼の赤い目にうつる自分の姿を見て、私という人間はどれほど愚かなことかと、心の中で笑った。
私がナイフでゾンビマンを刺したことによって店内は少しザワついたけど、彼はまるで平気そうなので、なんだおもちゃか、と周りは勝手に解決して、店内は案外落ち着いている。
ああ、もっかいしてほしい。
そんな気持ちを振り払い、私はさっきの写真を撮っていたカメラマンの男のもとへ行き、カメラを分捕ると先ほどの写真データを全て削除した。嘆く声が聞こえ、なにか男が暴れているけどこの私に一般人が勝てることはなく、無事に私に関するデータを全て消すことができた。

「何か都合の悪いことでもあるのか?俺と付き合うというのは」

席にまた戻るとゾンビマンは余裕の表情で私のことを見ていた。
氷が溶けて薄くなってしまったコーヒーを、私は思いっきり音を立てて飲んだ。

「…他の人と遊べなくなる」
「俺がその分相手してやるよ」
「でもゾンビマンは私がスク水着てって言っても着てくれないでしょ」
「待て、お前そんなことしてんのか」

してるのよ。
目で訴える。さすがの彼も引いたのか、先程までの表情が少し崩れ、またタバコに火をつけた。

「私は誰のモノになるつもりはない。好きなことも、好きなものも、自分で手に入れる」
「別に俺はお前を俺のモノにしたいとは思っていない」

別に私だってゾンビマンが私のことが可愛くてたまらなくて自分のモノにしちゃいたいなんて思ってるなんて思ってない。そんなことは私の馬鹿なおつむでも考えられる。だから分からない。どうして彼が今日こんなことをしたのかが分からない。が、思い当たる節がひとつある。

「え、もしかして私の事好きなの?」
「その通りだ」
「え」
「迷惑ならいい。俺との関係をやめるか?」
「……えぇえぇ、」

なにその選択。だから嫌なのだ。どっちつかずな答えは嫌われる。そっちだって私がしょうもない淫奔女だってことくらい知ってるだろうに。

「私が他の男の人としてるのやだったの?」
「まあいい気はしねえな」
「…私、今日泊まるのやめる」
「他のやつのところに行くのか?」
「行く」

コーヒー代1000円を置いて席を立ち上がる。ゾンビマンは特に私をとめることもなく、新しいタバコに火をつけた。
挨拶もせずに、私は店から出た。
まさかゾンビマンが私のことを好きになるなんて、かなり予想外だな。淡泊なイメージあったんだけど。しばらく会うのは止した方がいいだろうか。
パチン、と携帯を開くと何人からかメールや着信が届いていた。でも、いや、そういやカマちゃんから連絡きてたな。今日はもうヤる気にもならないし、ご飯誘ってみよ。



*

「えええ!?ゾンビマンに告白された!!?」
「ちょっと、カマちゃん声が大きいよ」

とある大衆居酒屋。カマちゃんは2人を隔てるテーブルに乗っかるような勢いで身を乗り出した。分かりやすいリアクションだ。

「なんでこんな股の緩い女がモテるのかしら…」
「ちょっと、股は緩くないよ。尻が軽いだけで…」

聞き捨てならない言葉も「どっちも一緒よ」なんて片付けられ、カマちゃんはすごく面白そうな顔をして「面白くないわあ」と私を見た。

「で、どうするのよ」
「え、振ったよ」
「はあ!?バカじゃないの!?あんたバカじゃないの!?」
「なによお」

カマちゃんはなんでも話せるお友達。私のことを敬遠しないし、かと言って体目当てなんてことは絶対にあり得ないので、私の数少ない女友達としてよくこうして飲みに行ったりしてる。こんなしょうもない女と友達として付き合ってくれる奇特なヒーローだ。

「だって男女交際とかめんどくさいじゃん」
「その面倒臭さがいいんでしょ。あーん、私もゾンビマンに抱かれたい…」
「めっちゃくちゃにイイよ」
「黙らっしゃい」

カマちゃんとのお話は楽しくて好き。「でもその話詳しく」なんて私とゾンビマンの情事に興味津々なのもウケる。
ひとしきり語り明かしたあと、おかまいなしに私はカマちゃんの家に泊まる。こんなのしょっちゅうある事なのでパジャマとか下着とか色々、私のお泊まりセットは常備してる。
お風呂に入って、お肌のお手入れにカマちゃんの化粧水をちょっと拝借してみたりして、寝る準備が全て整ってから同じベッドに潜り込んでお互い携帯をぽちぽち。眠くなってきたかな、と思ったところでカマちゃんが「ねえ」と小さい声で話しかけてきた。

「なあに?」
「あんた、いつまでこういう生活するつもりなの?」
「こういう?」
「男の家を渡り歩いて、最後に家に帰ったのはいつ?」
「……いつだろ、覚えてないや」
「まあ、私はあんたが一生ヤリマンだろうと構いはしないけどね。家もあってないようなものだろうし」

私のことを心配してくれているんだなってすぐに分かった。私のことを心配してくれるのなんてカマちゃんくらいだよ。
お礼にチューをしてあげるとカマちゃんの顔は心底ウザそうに歪んで「あんたにしてもらっても何も感じないわね」とばっさりきられてしまった。でも私も、そんなカマちゃんが好きなのだ。

「私いま鬼サイボーグ狙ってんだよね」
「あの子カタブツそうじゃない。あんたには無理なんじゃない?」
「でもサイボーグちんぽ想像しただけで濡れる」
「ホント品のない女」

でも嫌いじゃないわよ。と、カマちゃんも私にキスをする。
私たちはクスクスと笑って、やっぱりなんも感じないね、って、そのまま横になって目を閉じる。
アロマキャンドルの香りが心地いい。そのまま自然と意識が沈み、私たちは眠りについた。



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カマちゃんと居酒屋いるくらいのところまで書いてて載せるには中途半端で気持ち悪かったから蛇足でもいいやと思って一年ぶりに加筆。
暇潰しにでもなってくれたんなら良いですが。


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