03

「いや待って無理無理怖いやだあああ!!!」

今、大変不服なことではあるけど緊急事態により私は悟にしがみついている。さながらダッコちゃんのように、悟の胴体に腕と脚を巻き付けて、絶対に離すものかと力いっぱい抱きつく。抱きつかれた本人は非常に楽しそうに私を引き剥がそうとしてくるからムカつく。
私だって悟に抱きつきたいわけじゃない。でも今だけは悟の無下限術式が私にも必要なのだ。

「お前虫本当にダメな〜」

今回の任務では虫のような呪霊がわんさかと。
弱い呪霊はよく群れる。イワシの大群のように自分を大きく見せようとしていたり、数で勝負してくるのだ。だけどイワシは水族館で見る分には綺麗だし何より襲いかかってこない。でもこれはイワシじゃない。一見蛾のような呪霊が何千匹も襲いかかってくる。こんなの捌ききれないし、かと言って絶対に触れたくもない。
よって今、こうなってるわけだ。悟に引っ付いていたら無下限の恩恵を得て蛾は私には到達できない。でも別に悟は私を支えてくれているわけじゃないから、悟にしがみついてるのも時間の問題だ。

「やっ、やだ、悟っ、あっ、はやくぅ…っ」
「…。」
「もう、力入らない…、からぁっ!」
「…術式解く?」
「なんでっ!やだ、お願い悟…っ、はやくして…っ!」
「なんかお前エロくね?」
「はあ!?ざけんな!さっさと祓わんかい!」
「へーへー」

悟が気だるげにため息をついた瞬間には、呪霊はもうきれいさっぱりいなくなっていた。やっぱこいつすげえな。
力が抜けてどちゃっと地面にへたり込む。まじでなんで早くやってくれないのか。絶対に私の反応を楽しんでいた。だから嫌いこいつ。

「報告書に名前が俺を性的な目で見てきましたって書いとくわ」
「はっ倒すぞ!!」





任務が終わり寮、談話室でのこと。
硝子が何やら神妙な面持ちで私を見ているから何か深刻なことでもあったのかと私も真面目な顔になる。硝子は両手で持っていたマグカップをテーブルに置くと、耳打ちをするように私に顔を近づけた。

「五条を誘惑したって?」
「何でそんな話になってんの!?」
「涙目で震えながら『お願い悟♡はやく♡』て胸当てながら言ったって」

死ぬほどしょうもない内容だった。何がどうなってそんな話になっているのか。

「違っ…、あれ、違…?いや違う!そんな風に言ってない!言ったけどそんなんじゃないもん!!」
「胸は当てたんだ」
「当たるんだからしょーがないでしょうよ!てか何それ、そんなん皆に言いふらしてんの!?」
「いや、夏油に『俺もうどうしよう〜』て泣きついてた」
「泣きつくくらい嫌ならさっさと祓ってくれりゃあいいのにあのトンチキが!」

真実を全て硝子に伝えて、硝子は「何あいつ童貞かよオモシレー」なんて言ってるけど私は何にも面白くない。どうせ私のことキモイとか言って先輩とかにも言いふらして歌姫先輩にはドン引きされて冥さんには金を揺すられてちょっと気になる一級さんの耳にも届いてなぜか既に距離取られてるのにもっと避けられちゃうんだ。
もう私の高専生活終わったね。ああ終わったさ。こんなことなら来年からと言わずに早々に補助監督役になればよかった。

「でも五条は嫌だったわけじゃないよ」
「嫌じゃなかったらこんな仕打ちしてこないでしょ。あいつ私のこと本当に嫌いだよね」
「あんたまだそんな勘違いしてんの?」
「え?」

なにが?と首を傾げたら硝子はため息をついて「ホントこいつらは…」とか何とか言いながらタバコに火をつけた。ここで吸ったら怒られちゃうよ。出禁になっても私知らないよ。