05

「ぎもぢわりぃぃぃ…!!」

合コンはあれから四人で別の席に移動して悟に無理やり酒を飲ませる会になっていた。普通に犯罪だけどそんなん知らないね。オレンジジュースだよって言ってカシオレ飲ませたしお水だよっていいながら日本酒飲ませたし、突然バタンって倒れて眠り始めたから傑に後始末任せて、私と硝子はさっさと高専に戻った。
そして翌朝。私が教室に入ると真っ青な顔した悟が二日酔いを治せと硝子に泣きついていた。傍で苦笑いしてた傑に「記憶はどうなった」と目で訴えると「大丈夫」と言うので安心して悟のところへ行く。

「バカめ、女に騙されて酒飲んでこのザマか」
「うるせえ…、吐きそう…」
「ああ可哀想に!でも100%自分の責任だよねそれぇ!」
「う゛る゛ぜえ゛ぇぇ…」

あ、なんか気持ちいいぞ。二日酔いになるまで飲ませたの私だけど。今日だけは立場逆転。悟をけちょんけちょんにできるチャンス!硝子、絶対に二日酔い治すんじゃねえぞ!と言おうとしたら硝子ってば悟のことちゃんと治してあげてた。優しいかよ。私にも優しくなって。「だって可哀想だし」なんて言っちゃって。あなたも悟に酒ガフガブ飲ませてた一人でしょ。おもしれ〜って動画撮ってたじゃん。ゲラゲラ笑ってたじゃん。

「おい、名前チャンよお」
「はい」
「昨日はよくもやってくれたな」
「はい、なんかほんとすみませ…っ、え!?」

硝子のちゃちゃっと反転術式でなんだかお肌の調子までよくなった気がする悟が私のちいちゃな頭蓋骨を鷲掴みにしている。
問題はそこではない。こんなことはいつものことだから、どうでもいい。目の前でいい笑顔で私の頭をギリギリと握り潰そうとしている男はさっき、「昨日はよくもやってくれたな」と言った。まるで昨日のことを覚えているみたいじゃないか。

「覚えてるぞ」
「!?す、傑、騙したな!?」
「ごめん名前。今度京都の美味い蕎麦屋に連れていってくれるって言うから」
「えっ、そんな理由で売られたの!?と、友だちだと思ってたのに!このクズ!」
「分かってるよな、名前。今から鍛錬場行くぞ」
「ひっ!やだ、やだ!!お助け!硝子ぉー!!」
「100%自分の責任だよね」
「ぐっ、こ、この…っ!裏切りモン共がぁぁあ!!!」

まさか、自分の言った言葉が丸ごとそのまま自分へ返ってくることになるとは毛ほども思わなかった。
抵抗も虚しくひょいと米俵のように肩に担がれ悟はそのまま教室を出ていく。私の命もここまでか。

「重たい。降りろ」
「じ、自分から担いどいて…」

理不尽極まりないな、なんて思いながら悟の肩から降りて、皺になった制服をはたく。
鍛錬場に行くと言った割には全然違う方向に来ている。私たちでもあまり来ない、なんにもないところ。まさか人目のつかないところで暗殺でもしようってのか、と不穏なことを考えてしまう。

「ね、ねえ悟。なにも殺すことはーー…」
「名前」
「ひゃ!はい!」

えらく真面目な声で名前を呼ばれた。これは本気の本気でキレてるな、とビビって声が裏返ってしまった。
でも後に続いた言葉は、私の想定外の言葉だった。

「ごめん」
「へ?」

ごめん。今この男は、私に対して『ごめん』と言ったのか?え、なぜ、ホワイ?全く理解が出来なくてポカンとしてると悟は私の様子を見て呆れた様子でボリボリ頭をかき始める。

「キス、した」
「…え」

した、けど。間違いなくされたし舌まで入れられたけど。
謝罪の言葉が意外だった。だって、「なんで俺がお前とキスすんだよキモチワル」とかなんとか言われるかと思ったから。それでキモイキモイオッエーと暫く汚物のような扱いを受けるものだと思っていた。だから、記憶を抹消しようと思ったんだ。

「本当にごめん」

けど、あの高飛車で自信家で自意識の塊が私に頭を下げている。申し訳なさそうな声出して。
私みたいな、道端の石ころに、頭を下げている。

「顔上げてよ」

なかったことにしてあげるから、私からわざわざ触れるつもりもなかったのに。

「…気になるだろ」
「そりゃ、私とチューしたなんて気持ち悪いって思ってるんだろうけど、アルコールのせいだよ。ちゃんとお口ゆすげば大丈夫」
「…なんだよそれ」
「いやだから…」
「俺がいつ気持ち悪いって言ったんだよ」
「え?」

なんか、怒ってる。昨日の模部くんと絡んでたことを怒ってたみたいに、眉間にしわ寄せて、怖い目して怒ってる。なんで?悟が怒っている意味が分からなくて戸惑っていると盛大に舌打ちをされてた。え、もしや喧嘩売られてる?優しく許してあげようとしてたのに。

「謝ったと思ったらなんで急にキレてんの?情緒大丈夫?」
「お前が適当なこと言うからだろ」
「ええ?そんなこと言った?」
「自虐でマウントとって、それが一番キショいわ」
「は?まじで喧嘩売ってる?全然買うけど?」
「お前と喧嘩してもなーんも面白くねえよ。どうせ秒殺だし」
「呪力がなければ何にもできないバカのくせに」
「バカはお前だろ」
「いやいや、バカだからブスだと思ってる女にキスするんでしょ」
「ホ、ント…性格までブスだな!」
「ああブスだよ!お前が言う通り顔も性格もブスだよ!でもお前よりはマシだボケェ!この…っ、この、い、いんきんたむし!!」

五条悟はいんきんたむし!!と叫びながら私はその場から走って逃げた。イライラしすぎてどうにかなりそうだ。こっちは被害者だぞ、なんで怒られなきゃならんのだ。
その日のうちに、最強の男いんきんたむし説が高専中の話題になったのは言うまでもない。ザマアミロだぜ。