Caligula
新生した紅い翼の1F。
ユウナは自身のクォーツの見直しをしようと足を運んだ。ティータや他の仲間達が居たら相談してみるのもいい。
自動扉が開き、騎神や機甲兵が格納されている大きな空間に出る。その手前のスペースにここ数日で見慣れた大きな背中があった。

クロウ・アームブラスト

教官のクラスメイトにして、不死者。
……それだけではない。
新Z組のメンバーはそれぞれ彼に対する見方をどうしていいのか、考えあぐねていた。
アルティナも、彼に対してはちょっと辛辣な、昔を思い出すようなつっけんどんな反応を示す。クルトも微妙に冷たい気がする。なんというか、教官の過去の女性問題が露呈した時の対応に似ているような。ミュゼは相変わらずにこにこしているし、アッシュは勝手にしろと言わんばかりの。
ユウナもまた、何とも言えないわだかまりを抱えていた。
教官である彼からは、過保護な程にたくさんの愛情を注がれていると思っている。まず、贔屓をする人間ではない。共和国(敵)ですら殺さないそんな人だ。
でも。
なんだろうこのモヤモヤは。

「おーい、どうした…?」

クロウが不思議そうにこちらを見ていた。「大丈夫かー」と言いつつ手を軽く振っている。思考停止していたユウナは、ハッとしてクロウの隣へ駆け出した。

「お前さんの強みはやっぱりそのふたつのモードだろうな」
「そういうクロウさんもそうじゃないですか」

隣に座ってクォーツ並べて唸っていたら、横から声を掛けられた。そして、横からころころと転がってきたクォーツたちを見て目を見張った。

「なんというデバフ祭り……」
「ガンナーモードの攻撃範囲のデカさを利用しないとな」

ばぁん、と指で拳銃の形を作る。容赦のなさは流石元テロリストだからだろうか。

「そう言えば、クロウさんってふたつのモードがあるのに基本的に二丁拳銃ですよね…」
「ん? まーな…なんつーか、あっちはあまり好きじゃないみたいだからな」
「……え?」

"好きじゃないみたい"とは。
クロウは何処と無くランディと似ているとユウナは思っている。性格や口調もそうだが、何しろこのガタイの良さは前衛向きだ。ユウナも一度だけ双刃剣を奮う彼を見たことがあるが、とても様になっていた。

「クロウさんって、物理もですけどアーツも適性高いですよね」

いつの間にか刃と牙ばかりになってる気がする己のオーブメントを見ながら、何となくはぐらかされたような気がしたため、ユウナは少し話題をズラしてみた。

「水と時の男だからな」

よく分からない返しをされたが、水と時は彼のラインの話だろう。確か教官は火と時だったっけ。
ほらよ、と見せられた彼のオーブメントは、成程良く考えられている。とても前衛的な後衛のオーブメントであった。

「あれ、水属性のスロットは攻撃アーツを入れないんですか?」

エマやティオ、ミュゼ程ではないが彼もアーツが得意な筈だ。ユウナは彼の水属性のラインに嵌め込まれた治癒のクォーツを見て不思議そうに首を傾げた。

「まーな、水と言えば回復だろ」
「風属性にもありますよね」

しかも全体の、と続けるとクロウは頬を指で掻きながら少しバツ悪そうだ。

「まあ、上位クォーツだし。攻撃も良いが生き残る事も大切なことだろ?」

俺は死んでるんだがなと笑う彼に、ユウナまたはぐらかされたと思った。でもきっと、問い詰めても答えてはくれないだろうと。





「ッ! 教官!リィン教官!!」

禍々しいオーラを振り撒き、こちらの静止の声さえ届かず、もう動かない魔獣に刀を振り下ろす教官を見て、ユウナは涙ながらに叫んだ。
手強い手配魔獣に教官は力を解放することを選び、そして暴走を始めてしまったのだ。力づくで止めようにも危険すぎる。
ユウナの叫び声に惹かれたのか、正気ではない彼の視線がユウナへ向く。片手には刀を持って。
まずいと直感した。
逃げないと、自分が。何よりも彼が。
でも、足が動かない。
恐ろしい迅さで繰り出された刀にユウナが目を閉じた瞬間、目の前で刃がぶつかる音がした。
腰が抜けて座り込んだユウナの目の前で、真なる贄の一撃を受け止めた双刃剣が悲鳴を上げる。力と力がぶつかり合い、圧が生まれた。しかし受け止める青年は、器用な事にガチガチと太刀の勢いを相殺しながらアークスを駆動させていたのだ。
刀を払いのけて、詠唱が終わったのか青い光が贄を包む。

「……あ、れ」

クロウが唱えたアーツがキュリアであること、彼がどうして治癒のクォーツをはめているのかを、ユウナは一瞬で理解した。
リィンが正気に戻り、自身の消耗など二の次でへたりこんでいるユウナに走り寄った時、クロウは何事も無かったかのように、二丁拳銃をくるくると回していた。



そうか。皆が、あたしが、彼に対して抱いてる感情は。
ALICE+