審神者というお仕事はもっと楽なものだと思っていた。
生半可な気持ちではできないと思い知った初日。下手を打てば死んでしまう。それを知ってからというもの、私はひたすらに兵法を学んではうんうんと唸っているのだった。刀剣から姿をあらわした、見目麗しい男性のかたちをした神様たち。刀剣の破壊、すなわち死をできる限り回避し、いかに勝てる戦をするか。たくさんの書物を漁っては、刀剣たちに指示を出す。
「ふぁ……あ、しばらくは平穏になるかな」
近場へと部隊を遠征に出し、残っている子達を手入れに回す。しばらくは様子見だ。
「ねぇ主、ちょっといい?」
「え、清光? お手入れは?」
「抜けてきた」
しれっと言った清光に顔を思い切りしかめる。ここできちんと手入れをしておかなければ次の戦に響いてしまうというのに、清光は擦り傷をこしらえたまま悠々と敷居を跨ぐ。
「抜けちゃだめでしょ、刀はきちんと手入れしないと」
「手入れをするのは何も刀だけじゃないでしょ?」
にっこり笑った清光が、私の横にきれいに正座した。そして綺麗に紅く彩られた爪先で太ももをとん、と弾いて「主」と私を呼ぶ。
「はい?」
「だから、はい。膝枕」
「……えええ、いや、えっ?」
何を言っているのだこの神様は。呆気にとられたまま、清光の顔と太ももを交互に見つめる。すると清光は呆れたのか待ちきれなかったのか、私の襟首をぐいと引っ張った。ぐえ、なんて色気のかけらもない声が出たがなかったことにしようと思う。
清光の太ももに突っ伏した形になり、ごろんと転がされる。真上から清光に見下ろされ、手のひらが頬を滑った。
「クマ、できてる」
「う、うん」
「寝てないの、みんな知ってるよ」
「……うん」
「可愛がってもらいたいけどさぁ……眠そうにされるのも、それはそれで癪だし」
清光の不機嫌そうな顔に、最近構ってやれなかったのを思い出す。よほど切羽詰まっていたのかもしれない。
清光の冷たい手が頬を撫ぜ、そして私の目を覆うように被さった。
「おやすみ」
鼻の頭にちゅっと唇が落ちてくる。目を覆うのと反対の手が頭を優しく撫で、自然と意識は堕ちていった。
2015.04.09
2025.10.21 移動、加筆修正
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