※嫉妬、やや不穏
ばたん! と大き目の音で扉が閉まって、無言だった千弥が口を開いた。引っ張られていた腕は離されはしたものの、ずいと壁に追い詰められて、顔の近くでアクセサリーが音を鳴らした。
「なまえは俺の彼女でしょ」
そうだよ、好きだよ、千弥の彼女だよ、いろんな言葉が浮かんで、どれを音にしようかと迷っている間に、千弥の眉間にみるみる皺が寄っていく。私もたいがい馬鹿だ。千弥が求めているのは丁寧な言葉よりも、まっすぐにぶつかってくる気持ちだとわかっているのに。
「ごめん」
「なんで謝るの? 嫌いってこと?」
「違う。千弥が好き、千弥がいい」
謝ったのは、私が言葉選びに悩んだせいで千弥を不安にさせちゃったからだ。好きと口にした瞬間、千弥の眉間の皺が少し緩んで、ああもう大好きって言いたげに口元がちょっともにゃってしてて、でもまだ許さないって顔をする。
「千弥。ごめんね、好き。いちばん」
「俺以外の男の人に近付いちゃだめって、いつも言ってる」
「それはごめん……けど、」
「俺だってわかってる!」
生きていくうえで避けきれないこと。ちょっとどころか、かなり無理があること。千弥が、嫉妬深いこと。私のことが大好きで仕方がないこと。
千弥は気まずげに口元を抑えた。眉間の皺が消えたと思ったら、今度は泣きそうな顔をして、私から一歩離れてしまう。
「ねえ」
好きだよ、大好き。いっぱい言えなくてごめんね。まっすぐぶつけるの苦手でごめんね。千弥が私に気持ちをぶつけてくれるの嬉しい。もっと、って、思っちゃうくらいには。
わざとじゃない。千弥のこと怒らせたくないし泣いてもほしくないし、何より私だって嫌われたくないんだから。
「大好き」
ずっとずっと私のことだけ見ていてね。
離れたぶんの距離を詰めて、袖を引っ張る。赤くなった目尻が弧を描いて、安心したように私を抱き締める千弥の背に腕をまわした。
2026/09/28
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