「んじゃ、おつー」
 待機画面に移って、それから配信が止まった。聞き慣れた声が恋しくなって、LIMEのトーク画面の一番上を開く。疲れてるかも、と数秒迷って、結局コールをタップした。
「は? まだ起きてんの」
 あ、さっきまで聞いていた声。少しだけトーンが違くて、ハキハキとした。ちょっとゲームで操作を誤ったとき、理不尽な展開になったとき。こうして「は?」とこぼして、コメント欄が盛り上がる。
「ちょっと、眠れなくて。配信見てたの」
「見てたら余計寝れないでしょ。早く布団入りなって」
「お布団には入ってるよ」
 ぬくぬくと心地良いのだけれど、脳みそが興奮しているのかイマイチ眠気が襲ってこない。きっと春日くんもおんなじだ。
「demuは、入眠ASMRとかやらないの?」
「さすがにキャラじゃないって」
「絶対需要あるよ」
「需要あってもやんない」
 まあ確かに。demuがゆっくり数字数えて呼吸管理とかし始めたら笑っちゃうな。
 興奮醒めやらぬ夜は、こうして他愛もない会話が弾むというもの。そうして少しずつ、穏やかな気持ちで満たされて。
「んー……でも、やっぱり聞きたいかも」
 うっとりと、身体が沈んでいく。
「demuがいい? 俺じゃなくて」
「え。春日くんがいい」
 すっかりdemuは鳴りを潜めて、すっかり普段の春日くん。
「んじゃ……ひつじが1匹」
 単調に、羊がふわりと柵を飛び越えていく。
「ひつじが50匹。……寝た?」

 深夜3時、羊の絵文字が添えられたおやすみに気付くまで、あと5時間。

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