教室の窓際の、一番前の席。それがみょうじさんの席だ。
反対に俺の席は、廊下側の、一番後ろの席。思い切り対角線、一番遠い席。特別仲がいいわけでもない、普通のクラスメイト。席が遠ければ接点なんて何もないに等しい。
なんでみょうじさんのこと好きなんだっけ。右から左へ流れていく英語、午後の睡魔。授業を聞いていては寝てしまう、そう思った俺は思考を授業からみょうじさんに持って行った。
***
「幸村くん、落としたよ」
初めて話したのは、入院生活から戻ってきて少し過ぎた頃だった。それまでは同じクラスになったことがなく、委員会などが被ることもなく、接点は見事に何もなかった。
戻ってきてからはやたらクラスメイトに話しかけられた。たぶん俺のことを気遣っていたのだろうし、そうでなくても全国一のテニス部となれば少しくらい話してみたいとも思うだろう。俺が逆の立場ならそう思う。けして下心があるわけではなくて、単純な興味本位だ。そんな中で自然とクラスメイトの名前も覚えた頃。たった一人、名前と顔が一致しない子がいた。それがみょうじさんだった。
「ああ、ありがとう。えっと……」
「みょうじ。初めて声かけたもんね」
クラスの中で、みょうじさんは良い意味で浮いていた。友達がいないということじゃなくて、クラスの中にある仲良しグループとか、そういうものに属していない子だった。誰とでも仲が良いと言えば聞こえはいいが、誰とも仲良くないと言ってしまえばそれまでだ。もちろん俺は、誰とでも仲が良いと思っているが。
「幸村くん、ちょっと抜けてるところあるんだね」
「え、俺が?」
「ちゃんと人の子でよかった」
悪戯っぽく笑ったみょうじさんに、俺も小さく笑った。嫌味と言えば嫌味のような台詞、でも嫌味には全く聞こえない。
「引き止めてごめんね。部活行ってらっしゃい」
「みょうじさんは?」
「私は帰宅部だから」
特に好きなこともないしね。
少し自嘲的に呟いたみょうじさんを前に、俺はどんな顔をしていたかみょうじさんにしかわからない。でもこの時俺は、確かにみょうじさんの腕を掴み言ったんだ。
「よかったら、部活見にきてよ」
***
チャイムの音で思考が戻った。結局あの後来てくれなかったんだっけなぁ、といったんみょうじさんのことについては区切りをつけて、黒板と自分のノートを見比べた。特に重要なことは書かれていなかった。
対角線にいるみょうじさんは、静かに教科書とノートと辞書を片付けて、少しだけ動きを止めたかと思うと、思い立ったようにスクールバッグから文庫本を取り出した。何読んでるんだろう。声をかけようにも対角線にいては、自然に声をかけるなんてできっこない。
「また誘ってみようかな」
思えば俺の片想いは、話しかけられたあの時からはじまっていたのかもしれない。
2015.02.22
2025.12.20 移動、加筆修正
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