「あっ、こら! なまえ!」

 俺の声になまえはひくりと肩を震わせた。俺は慌ててなまえの手から荷物を取り上げて、かなりの手加減をしてほっぺたをつねる。痛くないはずなのに、なまえは痛いと抗議した。

「だめだよ。ちゃんと身体大事にしなきゃ」
「もう、精市くん過保護! 宅急便受け取っただけでしょ」
「何かあったらどうするのさ」

 段ボール箱はテーブルの上に放置して、なまえの膨らんだお腹を恐る恐る撫でる。このなかにもう1人の生命が存在してる、それも俺となまえの子だ。それになまえはつわりがひどかった。他の妊婦さんを見たわけじゃないから、比べる基準はないのだけれど。辛そうななまえを見るのは俺だってつらい。

「もし女の子だったら、精市くんすっごく過保護になりそう」
「えー、そんなことないよ」
「お嫁に行くの嫌がりそうだもん」

 それは……否定しきれない気がする。
 定期健診では異常もなく、なまえもお腹のなかの子も至って健康だった。でもやはり心配なものは心配だ。

「赤ちゃんの名前どうしようね」
「なまえから一文字取りたいな」
「そしたら精市くんからも一文字取ろうよ」

 近い未来産まれてくる我が子を想っては、たわいもない話をする。前まで仕事で忙しそうだったりどこか影のあったなまえは、ふわふわとして早くも母親のような雰囲気が滲み出ている。
 俺はなまえからみたらどうなのだろうか。きちんと父親になれるか不安だ。

「精市くんはいいお父さんになるよ」
「え?」

 俺の不安を読み取ったようになまえが言った。

「大丈夫。私は不安なことなんてひとつもないよ。だって、夫が精市くんだから」

***

 人は誰しも産まれた時は泣いている。この子もその通りで、元気な産声をあげていた。
 母子共に健康。産まれたばかりの子は早くもなまえの腕のなかで眠っている。

「がんばったね、なまえ」
「私だけじゃないよ。この子もがんばって産まれてきたの」

 愛おしげに我が子を抱くなまえの姿に、思わず泣きそうになった。幸せすぎて泣きそうだなんて初めてだ。情けない姿を見せまいと、慌てて天井を仰ぐ。

「ふふ、精市くん、泣いてもいいよ」
「やだなぁ、泣かないよ」

 初めまして、愛してるよ。我が子の耳元で囁いた。


2015.03.05 Happy Birthday!
2025.12.20 移動、加筆修正

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