第一話






それは、白い満月が輝く夜だった。
俺は、紅い紅い血を見た。いや、血のような深紅の瞳。この出逢いは運命だと思った。


『アンタ、名前は?』


一心にボールを蹴っているその子に話しかけた。その子はボールを蹴っている足を止め、こちらに向いた。
第一印象は仏頂面だった。心情が掴めない顔でこちらを見つめた。凛と俺を見つめる瞳があまりに綺麗で吸い込まれそうだった。


「なんだ、お前は。普通名前を聞く時は自分から名乗るのが妥当だろう」
『っ、俺は夕里』
「そうか。俺は、鬼道有人だ」


あ、声好み…って何考えてんだ俺は。


『ふ、ふーん』


そっけない素振りとは裏腹に、俺の鼓動は早く鳴り始めた。
なんだ、コイツ……


『毎晩ここでボール蹴ってんのか?』
「ああ、楽しいぞ。お前もやるか?」
『まあ、どうしてもって言うなら、やってやってもいい…』
「そうか。なら、」


ポンっ、とこちらに向かってボールが飛んできた。有人を見るとやんわりと微笑んでいた。思い切り蹴飛ばしてやろうと思って後ろに下げた足が止まった。心臓がうるさい。なんだコレ。なんだコレ。
第二印象は可愛い。男の俺が男のコイツに可愛いだなんてどうかしてる。


「どうした、夕里?」
『う、うるせぇっ!今日はもう帰る!』
「そうか、残念だな…」


有人はしゅん、としたように顔を下げて呟くように言った。
きゅん…。だから、なんだコレ!


『じ、じゃあな!…有人っ!』


名前を呼ぶと有人は、ばっ、と顔を上げた。少し顔を赤らめて微笑みながら「ああ、また明日」と頷いた。
俺はくるり、と踵を返して暗い路地へ入って行った。自分でも気付くくらい自然と口角が上がったのが分かった。
今まで友達がいなかった俺は、また明日。その言葉が相当嬉しかった。


「おい、夕里。どこ行ってたんだよ」
『ああ、ごめん、明王。ちょっとぶらぶらしてた』


帰ると明王が怒った顔して待っていた。苦笑いしながら謝ると、黙って食パンを渡された。横に座ってパンをちぎってほおばる。口の中で砂を噛む音がした。
俺と明王はいわゆるストリートチルドレンだ。同じ腹から産まれたけど、父さんは別々だった。俺達は髪以外、母さんに似て、顔立ちはそっくりらしい。俺達はそうとは思わないけど。今まで母さんに言われた言葉を信じて二人で強く生きてきた。


「どうしたんだ。気持ち悪ぃな、ニヤニヤして」
『はぁっ!?別にニヤニヤなんか…』
「してるよ。なんか良いことあったか」
『………うん』
「そうか。そら、良かったな」


明王はパンを食べながら俺の頭にポン、と手を乗せた。それから俺は今度は口に出して笑った。
また明日、会えるかな…。



To be continue...





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