02
人気のない西館。
その廊下を一人歩く#名前#の姿があった。
等間隔に置かれた大窓から差す夕焼け色が辺りを赤く染め、何かを探すように窓の外を見る彼女は眩しそうに目を細める。
「確かこのあたりだと思うのだけど……」
ぽつりと零れた声音は微かな緊張と不安が感じ取れ、それは静まり返った廊下に響くことなく消えていった。
無意識に胸元で手をきつく握りしめる。
(もう、いないのかもしれない……)
考えないようにしていた思いを表層へあげれば、途端に気持ちが落胆した。
諦めるように小さく息を吐けば、それと同時にツン、とした独特の匂いに気付き、思わず口を押える。
「埃臭い……」
この西館は館の中で一番古いということもあり、ほとんど使われることがない無人館である。
その証拠に掃除は行き届いておらず、端にたまった埃に気づいてしまえば、環境上あまり長居していたくない場所だった。
「もう。使わないからといってこれは少しひどいわ。ここもきちんと掃除するようにお願いしないと」
そう独りごちた時、ふと止まる視線。
その視線の先は一つの窓の外に向けられていた。
それは探していた存在。
銀色の光。
#名前#は落ちていた気分が再び高揚していくのがわかった。
思わず笑みがこぼれる。
#名前#は少しかけ足でその窓に近づく。
そして――
バタン――、ガツッ!
「いってぇぇ!!」
勢いよく開けた窓は外開きで、窓を背にもたれていたその人の銀色の頭に直撃した。
痛みに声を上げた彼は頭を押さえながら涙目でこちらを睨む。
「あら?」
「あら?……じゃねえよ!!え、何?お嬢さん初対面だよね?初見なのに突撃隣の晩ごはん並みの図々しさで突っ込んできたよね?いやいや確かにあれはそれが売りだけどよ……さすがのヨネスケでもインターホン押すくらいの礼儀はわきまえてたよ?それを……あ、ちょ、見ろよコレ!銀さんの頭がほら、天パーになっちまってんじゃねえか!!おいおいマジかよ、絶対さっきのせいだって。俺は生まれつき天女も羨むようなストレートヘアだったのによォ、おま……ぶつかった衝撃で髪がくるくるのもじゃもじゃになってんじゃねえか。おいどうしてくれんだよ。いやほんと俺のアイデンティティと言っても過言じゃねえようなストレートヘアだったのにいやほんとに。こんな天パーじゃ周囲の目が気になって恥ずかしくて外にも出れねえじゃねえか。おちおちジャンプも買いにいけねえよ。勘弁してくれよオイ」
頭を触りながらしゃべりを続ける彼に#名前#は不思議そうに口を開いた。
「あなたの名前……銀、ていうの?」
ツッコむべき場所が違う#名前#に悪態をついていた相手もぽかん、と口を開けて黙った。
しばらく固まっていた彼だったが、やがて頭をぽりぽり掻きながら深く息を吐きだした。そしてもう一度顔を上げた時には先ほどよりやわらかい声で応えた。
「あー、俺の名前は坂田銀時だ。んで、お前は?」
「あ、わ、私は#名前#というの。あの、さっきはごめんなさい……。外開きであることを失念していたの」
恥ずかしさから微かに頬を赤らめる彼女に、銀時は知らず頬を緩めた。
「あーもういいって、いいって」
手をひらひら振って許す彼に#名前#はほっと息をついた。
「でも衝撃で髪の毛が突然変異してしまったのでしょう?」
「いや、これは…その、生まれつきっつーか……」
ごにょごにょ
「チクショー俺だってストレートヘアだったら今頃モテモテで
そんな彼がおかしくてくすりと笑った。
「でもとてもかっこいいと思うわ、その髪」
「いやいやお嬢さん、そんな気ぃ使われると余計みじめになるから」
「?でも本当に素敵だと思うんだもの。私は好きよ」
「何この子。俺を誉め殺してくるんだけど。誰かーここに突っ込みをー!人ひとり昇天できるくらいのツッコミをー!」
「