ねた

▼2017/11/24:滂沱の雨

notルフレ
行き倒れている所をクロムに拾われ自警団に所属している魔道士の少女(記憶喪失者)
エメリナ様のイベント後の話


何があっても守る。誰一人として死なせないという彼の誓いは脆くも崩れ去った。
この世で一人しか居ない敬愛する姉に伸ばした手は何も掴む事もなく空を切り、その遺体に触れることさえも叶わなかった。

己の無力さを嘲笑っているのか、それともこの雨は──。

「ごめんなさいクロム」
「何故お前が謝る?」
「私がもっと早く敵の姿を補足して一掃できていたら、エメリナ様は……」
「悪いが暫く一人にしてくれないか」
「嫌だよ。そんな顔してるクロムをひとりに出来ない」
「──何も、何も持ち合わせていないお前に何が分かる!記憶がないお前に身内を失う事の辛さは理解出来ないだろう!!」
口から出た言葉で漸く我に返り少女に視線を落とす。
彼女は目を細めると彼の言葉をやんわりと否定した。

「確かに私は何一つ覚えてないしまだ思い出せていないよ。だけどクロムだけは絶対に失いたくない、命を落とすかもしれない危機に陥ったとしてもクロムだけは絶対に死なせたくない。無色だった私の手を掴んで彩りを与えてくれたのは他でもない貴方だから」
言いたい事が纏まらないやと銀の髪を掻いていつものようにはにかもうとしている彼女の細い腕を引いて、閉じ込める。

「記憶がなくて一番苦しんでいるお前に酷いことを言った俺を許して欲しい」
「気にしてないから大丈夫。今はそれよりクロムの心の方が心配……ここには私達しか居ないから大丈夫だよ」
言葉の意味を理解した時には滂沱の雨が少女に降り注いでいた。
壊れてしまうのでないかと思うほど強く抱きしめられた彼女は躊躇うことなく逞しいクロムの背中に腕を回した。

「ごめんねクロム」
失意の底に居るクロムが言葉の真意を知ることになるのは大分先の話。

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極夜