ねた

▼2018/02/03:王様と恵方巻きを食べる

タイトル通りのお話
恵方巻き食べてるギルガメッシュが居たらいいなぁという願望の元書いてます
追記からどうぞ


口を閉じている時間の方が割と少ないのではないかと少女の中では認識していたのだが、それを少々改める必要がありそうだと思いながら茶葉の入った急須に熱湯を注ぐ。
視線の先には黙々と恵方巻きを頬張る英雄王もといギルガメッシュの姿。

日本の節分という行事がどういうものかと説明した折は面妖な表情を浮かべていたので、普段と変わりなく今日の出来事を談笑しながら夕飯を貪るのかと思っていたのだが彼は私の言った通り恵方巻きに手を伸ばしてから一言も発していない。

「緑茶置いとくね。熱いから火傷しないよう気を付けて」
湯気が立ちこめる湯呑みをギルガメッシュに差し出すと顎で指示を出される。
その場所に湯呑みを置いてから、手を合わせ恵方巻きに齧り付く。

「不味くはないが、日頃の食事には劣るな」
声を発せない代わりに目を瞬かせ、首を傾げると指の腹に付着していた海苔を舐め取っていたギルガメッシュの深赤の瞳と視線が交差する。

「今夜の食事は貴様が最寄りのスーパーで買ってきたものであろう」
ギルガメッシュが完食した恵方巻きは今私が食べている物の倍以上の値段がしたものだ。
舌が肥えている彼に298円の物など与えれば串刺しにされる──そう考えた私なりに豪華な物を選んだつもりなのだがそれでも納得していただけなかったのだろうか。

「んむ……来年はもっと高い恵方巻きを用意するね」
「とことん鈍いな……来年は貴様が作ったものでなければ我は食べぬぞ。最も侘しい財布と相談しながら材料を買うのであろうし、元より中身は期待しておらぬから安心するが良い」
「それなら市販の恵方巻きを食べた方が……」
「貴様以外が作った料理を臓物に収めたくないのだと何故分からん……あまりの愚鈍さに頭痛がしてきたわ」
「(それならそうともう少し分かりやすく言ってくれたら良いんじゃないかな)」
そう思いながら大分温くかった緑茶に口をつける。
果たして王様のお目に叶う恵方巻きが私なんかに作れるのか……来年の今日を想像して早々にキリキリ痛みだした胃に緑茶を流し込んだ。

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極夜