ねた

▼2018/03/28:私が従えるのは、赤い弓兵

*アニメEXTRA1話をベースに
*本編をリスペクトしている為ややグロテスクな描写があります
大丈夫な方は追記からどうぞ!


校内に絶え間なく響き渡る阿鼻叫喚とそれと共に広がっていく地獄絵図。
いつも一緒にいた友人の一人は真っ黒に塗り潰された名も知らない人……と呼んでいいのかすら分からない存在に風穴を開けられ、もう一人は鋭利な刃物のようなもので何度も体を滅多刺しにされ事切れた。

──次は私の番だ。
悲鳴を上げるより早く、その生物から逃れろと本能から下された命令に従い廊下を駆ける。
吐き気を催してしまう程に色濃い血の匂いと一辺に横たわる見知った人達。
山のように積まれた彼らが生体機能を停止しているのだと光の宿らない、淀んだ瞳が知らせていた。
背後から聞こえるかしゃんという音に私は止めていた脚を動かし、走り過ぎてカラカラに乾いて水分を欲する喉に眉を顰めながら両膝に手をついて呼吸を調える。

ほんの数分前から始まった一切理解できない理不尽な殺戮。
私達は普通の学生のはずだ。それなのにどうしてこんな突然理由もなく、恐ろしい程に残虐な殺され方をして死んでいかねばならないのか。
突如湧き出てきた自分でも理解出来ない激しい憤りに、スカートの端に皺が寄るのも気にせずくしゃりと握りしめる。
校内が微粒のように跡形もなくなって空に呑まれていくのを見て私は悟る。

「このまま粒子になって消えるか、あいつらに殺されるしか道はないってこと?」
……嫌だ。例え死と同列の痛みを身に刻む事になろうと、どれほどの辛苦を舐めようとも私は生に縋り付いてやる。
鼓膜を揺らした音にもう恐怖心は微塵も抱いていない。
その代わりに憤怒を瞳に滲ませ、壁に突き刺さっている黒色の剣を両手で引き抜くと無機物と対峙する。

「私の愛剣がないと探し回っていたのだが……君が所持していたか」
今まで全く気配などなかったはずなのに……!髪を揺らし背後を振り向くと長身の男が壁に背を預けこちらを見下している。

今日だけで嫌という程見てきた鮮血色の外套に身を包んだ男性は私の手に握られている黒刃を見ると、やれやれと肩を竦めながらそれを奪い取った。
敵か味方か……前者の確率の方が遥かに高い状況下で唯一の武器を銀髪の男に取り上げられ身を固くしている私をよそに、彼は二対の刀身を振り下ろす。
断末魔を上げるより早く黒い生物が消滅したと理解した瞬間、緊張の糸が切れたのかがくりと膝をついた。
足掻きに足掻いた結果がこれだ、何れにせよ私の命はここで尽きる。
腹を括り、閉ざしていた瞼を開くとおかしな光景が視界いっぱいに広がっていた。
私を横抱きにした彼は少しばかり困惑したような顔で上から降りてきたカプセル型の乗り物に乗り込んだ。

「それでは行こうかマスター。私の事はアーチャーと呼んでくれ」
いかなる願いも叶える奇跡の杯を求め最後のひとりになるまで繰り返される殺し合い──聖杯戦争の幕が切って下ろされた。

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極夜