ねた

▼2018/08/17:瑣末な傷

ヴラドさんSS

追記からどうぞ


ありふれた、誰にだって起こりえる自体が今日たまたま我が身に降り掛かってしまっただけ。
プラスチック容器の先端が右手の甲を抉り、直後そこから溢れ出す血と小さな痛みに少女は顔を顰めたが特別手当をする必要性も感じない。
患部に触れると薄ら滲んだ血が指の原に付着する。
思っていたより出血量があって目を見開きはしたが、それもじきに止まるだろうと気に留める事もなく作業を続行させんと机に向き直った瞬間、背後に何者かの気配を感じ取った。

「ヴラドさん……!?」
闇から溶け出たように姿を現したヴラドIII世の名を呼びつつ、彼に向き直ると先程傷を負った方の手を掴まれた。
一体何を……と考えるよりも早く彼の別名を思い出し、ああ成程と思いながら口を開く。

「血の匂いを嗅ぎつけて来られたのですね。掌に歯を突き立てられると流石に目立つので、これ以上血が欲しいのであればいつもの場所にお願いします」
「本日は貴様の為に動いた記憶もない。それにまた血の吸いすぎで倒れられては適わぬからな」
手の甲を這う生温い舌が傷に当たる度にピリリとした痛みが走り、小さく呻き声を上げてしまう。
そんなマスターの姿を捉えても尚、ヴラドは唾液でぬらぬらと光る掌に舌を這わせていた。

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極夜