ねた

▼2019/03/17:新しいお人形

GE2 (一応)ジュリウスSS
ストーリーバレ有


「とっても素晴らしいお人形を見つけたの」
燃えさかる炎の如き鮮やかな赤の髪を持つ姉を見上げ、幼い顔立ちに不相応な言葉を羅列した妹に思わず表情が強ばる。
独り言にも、姉に対する報告にも聞こえるラケルの言葉に声を詰まらせているレアの事など気にも留めていないといわんばかりに目をぎらつかせ、彼女は言葉を続ける。

「力加減を誤るとあっという間に壊れてしまうに違いないから、そこは充分気を付けなければならないのだけれど……今後が楽しみだわ」
瞳の奥に潜む狂気を感じ取ったレアは即座に瞳を閉じ、妹の言葉を肯定した。

* * *

さほど遠くない場所から幼児が慌ただしく駆け回る音が、レアの耳に届いた。
視界の端にちらりと映りこんだのは、妹がとりわけ愛情と手間を注いでいる少年で違いなかった。
室内を走り回る行儀の悪い姿など他者に見せた事のないジュリウスが額に汗を滲ませ、緊迫した表情を浮かべているなんて実に珍しい。
その訳が気になり、気配を消して少年の後を追えばジュリウスは両手に抱えていた花を無理に片手で束ねて眼前の扉をノックした。

「ぼくだよ。入ってもいい?」
「こんにちはジュリウス。きょうも来てくれたんだね?ありがとう」
色白を通り越して病的に白い肌をした少女が、開かれた扉の向こう側でゆっくりベッドから体を起こした。
細く小さな腕には幾重もの透明な管が刺さっており、此処からでも薬品特有のツンとした匂いが鼻をつく。

「たのまれてた本と、そとでさいてた花を持ってきたんだ」
「わあ……!」
「もうすぐまんかいになるんだ。だから早くげんきになって、いっしょに花を見に行こう?」
受け取った花に目を細め頷いた少女の横顔をジュリウスもまた、微笑みながら見つめている。
幼いながら礼儀正しく、周囲に気を配れるものの愛想や感情表現が乏しい少年があんな穏やかな顔をしているのを見るのは初めてで「彼もまた年端のいかぬ少年なのね」と安堵していると、背後から軋んだ車輪の音が近付いてくる。
罪悪感の象徴と言っても差支えのないそれに体を固くしていると、どこまでも優しく柔らかな声がかかる。

「お姉さまも此処にいらしたのですね。ジュリウスも彼女には心を開いているようですし、本当に良かった」
何が良いのか、と開きかけた口をつぐみレアはまた相槌をうつ。
どこまでも澄みきった妹の瞳は姉の考えも全て見通しているのだろう。
細めたその目は一切笑っておらず、仲睦まじくしている幼子に釘付けになっていた。

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極夜