ねた

▼2019/05/01:酒は飲んでも飲まれるなかれ

GE2 ジュリウス
泥酔して甘えられる


いつも腰を下ろしている席の後ろには丁度いい高さのテーブルがあり、少しでも上体を仰け反らせば鈍い音が響くことをすっかり失念していた。
久方ぶりの痛みに目を白黒させている暇などないのに、体は素直で衝撃が走った後頭部はズキズキと痛みを訴えている。

患部を撫でている手とは反対側の手に恐ろしいほど熱い手が重ねられる。
仲間達から無愛想と言われている我らがリーダーの頬は真っ赤で、愉快そうに笑みを作っている口から濃いアルコール臭が漂ってくる。

「……ひとまず退いてもらって、よろしいでしょうか?」
「お前と俺の仲だろう。それに最近はゆっくり話している時間もなかったし、お前の近況が聞きたいんだ」
「(近況報告だけならここまで密着する必要はないんじゃ……)」
上体を僅かに起こし、佇まいを整える。
私の体に腕を回し、寄り添っているジュリウスの力は本当に酔っているのか疑ってしまうほどに強かった。
偏食因子を投与され、人並み以上に力があるといっても同じゴッドイーター。
ましてや成人男性のジュリウスを振り払える力など、私は持ち合わせていなかった。

胸元に顔を埋め、こちらの近況報告に相槌を打っていたジュリウスの反応が徐々に鈍くなる。
ゴッドイーターは体が資本なのだから風邪をひくなんてもってのほかだし、何とかして彼を自室へ送り届けなければ。
寂しさを埋める為に小さな布団に体を曲げて、二人仲良く眠っていた幼少期とはわけが違う。
よからぬ噂がフライア内に蔓延し、ブラッドメンバーに迷惑かけるのだけは絶対に避けたい。

「肩を貸すから、自分の部屋に戻ろう?このままじゃ床の上で二人仲良く眠って風邪ひいちゃう」
「ん……」
半開きの瞳から覗いた金が私の姿を捉える。
緩慢な動きで私の上から退いてくれたジュリウスの肩下に頭を通しベッド前を通過しようとしたその時、彼の足が縺れ二人共々ベッドに倒れ込んでしまった。
ふかふかベッドに倒れたので先の頭部のような痛みはなかったが、ジュリウスは私の布団に体を滑り込ませ、睡眠体勢に入りつつある。

「ここは私の部屋!上着を脱げば良いって話じゃ……はあ」
渡された上着にリボン、その他諸々をハンガーにかけている間に私は諦めの境地に至った。
一日くらいベッドで眠れなくとも死にはしない、今日はソファーで夜を明かそう。
……そもそもどうしてジュリウスは泥酔手前まで酒を飲んだのだろう。

「最近、何かあった?」
返信を期待せず丸まった背中に声を掛けるといつもより更に低く、掠れた声が返ってきた。

「……お前を狙っている輩が多いと小耳に挟んでな。詳細を聞いていたら心配になったから見に来た」
「誰に吹き込まれたのか分からないけど、そんな人居ないからだいじょ────」
突如伸びてきた手が私をベッドに引き入れ、ベッドのスプリングが悲鳴をあげる。

「俺は、ずっとお前が……」
ジュリウスが微睡みの中に落ちていく。
彼が何を言おうとしているのかとても気になる。
いやいや、それよりもこの空間から抜け出すのが先決では!?と一人あたふたしている私を嘲るように背中へ回されていた手の力が強くなった。

「おやすみ」
昔はおやすみの挨拶と共に額にキスをしていたなぁという私の考えをこれまた嘲るように、熱い唇が私の唇を塞いだ。

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極夜