ねた

▼2019/10/10:紅月が笑う

鬼滅 無惨様

生暖かい目で読んでもらえれば幸いです


鬼殺隊に入ってから、苦手なものが二つ出来た。
まず一つ目が夜。
今もどこかで日が落ちた頃合を見計らい、鬼が人間を襲っていると思うと忌まわしく憎らしい時へと変わった。

二つ目はそんな闇夜を照らす、月。
人肉を食らう鬼を初めて見た時、反射的に日輪刀を振り下ろした。
頸を切り落とす刹那、鋭い爪が腕を掠めそこから吹き出す血を嘲笑うように天高くから見下していた月。
時に隊員の屍を照らし、人と鬼の圧倒的な力の差を見せつけてくる柔らかくそれでいてどこまでも無慈悲な月光がいつしか嫌いになっていた。


日輪刀を鞘に収め見上げた空は月が昇り、一帯は闇に包まれている。
藤の花の家紋の家まで少し距離はあるものの、徒歩で行ける範疇。
空を見上げると血を吸ったように真っ赤な月がそこにある。
何となく気味が悪くて足早に目的地を目指し片足を踏み出した直後、今まで何故気が付けなかったのか不思議とすら感じる数の鬼の気配が脳天から全身に行き渡った。
大乱闘になりそうな予感に頭を抱えながら鎹鴉の背を見送り、地を蹴る。

「(鬼が複数体、同じ場所に居るなんて……)」
那田蜘蛛山の一件もあるし、万が一に備え近くにいる隊員にこの事を伝えておいた方が良いと判断し急行したそこに広がっていたものに彼女は困惑した。
三体の鬼が膝を折り、どこか怯えた様子で少年を見据えている。
捕食対象である人間相手に頭を垂れるなど絶対に有り得ない。
──考えるよりも先に少年と鬼の間に割り込み、一体を何とか絶命させる。
第三者の登場にその場に居合わせた者は皆目を見開いていたが、彼女が背負う滅の字を見るなり大きな口を開けて二体同時に襲いかかってきた。

「(あれ……?)」
あの鬼達は、眼前の少年を襲うつもりでいたのではないか?
なのにどうしてその少年を無きもののように扱い、こちらばかり狙ってくるのだろう。
……襲う相手に何故頭を下げるだろうか、あのように恐怖に引き攣った表情をするだろうか?

「……もういい、二体とも消え失せろ」
俯き、沈黙していた少年から発せられたの地を這うような低い声に一瞬反応が遅れる。
斬撃に備え身を固めた体に生暖かい体液が降り掛かった。

「申し訳ございません!申し訳ございません!直ちにこの輩を亡きものに致しますので、ご慈悲を無惨さ……」
体を散り散りにされ、断末魔をあげることなく消えた鬼。
顔を青ざめ、嘆願した鬼の眼球が地面に転がる。
瞬きひとつの合間に瀕死状態に陥った鬼の頭を一思いに踏み潰した"少年"は人の良さそうな笑顔を"作った"。

「ありがとうございます、お嬢さん」
少年の違和感が全て繋がり、大きく距離を置く。
頭を踏み潰されても未だ息のある鬼の手が少年──鬼舞辻無惨の足に伸ばされる。

「……消え失せろと言ったのが聞こえなかったか?」
鬼の血で真っ赤に濡れた袴を気にする素振りも見せず、少年はこちらに近付いてくる。
枯れ葉が舞い上がった時には既に少年は眼前に居り、鈍い一撃が鳩尾に入った。
指からすり落ちる日輪刀を忌々しげに睨みつけた少年の瞳はおどろおどろしい赤をしている。

遠方から近付いてくる足音に鬼舞辻無惨は少女を抱えたまま、音を立てる事もなく姿を消した。
直後駆け付けた隊員が見たものはもう間もなく霧散する鬼の眼球と地面に刺さった日輪刀だった。

Prev | Next

極夜