ねた

▼2020/03/14:王様とWD

控えめなマスターとそんな彼女に少しイライラしているギル様
追記よりどうぞ


この世の全てを手にしたと賞賛される英雄王に対し、目前の弱く脆い存在が己の願望や欲求を伝えた回数は片手で足るほど。

マブい菓子以外は口にせぬという王の言葉をよくよく記憶していた少女はひと月前の催しで金箔に光が反射し、あの英雄王ですら引き攣った笑いを浮かべるようなマブすぎる甘味をはにかみながら渡してきた。
受け取った後に少し雑に頭を撫ると、彼女は嫌な顔ひとつせず幸せな微笑を浮かべていたのをひと月経った今も鮮明に覚えている。

「雑種」
「なに?ギルが私を呼ぶなんて珍しいね」
濁りのない瞳が真っ直ぐにこちらを射貫く。
十年余りしか生きていないまたまだ未成熟な存在だと改めて実感させられる、どこまでも澄み切った美しい眼は彼の騎士王を彷彿させた。

「貴様の望む品は何だ」
「あ、そっか。今日はホワイト……わ、ごめんごめん!無駄口が過ぎました!!」
面白いほどによく伸びる頬をめいっぱい両頬を掴み、外側へ引っ張る。
頬を抑えて蹲っていた少女は「欲しい物?」なんて零したがその直後に「いやでも、それはなぁ」と露骨に肩を落とすのが気に食わず、眉根を寄せながら手刀を見舞う。

「この我が直々に施してやると言っているのだ。王である我に叶えられぬ願いなど存在せぬ、疾く口にせよ」
「…………ギルの傍に居たいっていう贅沢な願いは、聞き届けてもらえる?」
「貴様が飽きるまで、傍に控えておれ。別段我の許可など要らぬだろう」
この女の言う"傍に居たい"はそのような単純明快なものではないと看破したうえで、両手を広げると小さな体がすぐ様飛び込んできて仔犬のように頭を擦り付けてくる。
嘆息をつき落ち着けと言うギルガメッシュの顔に一切嫌悪が滲んでいない事に少女は、今までの経験則から恐らく気付いている。


────私の命が果てるその時まで、傍に居たい。
その言葉ひとつで目の前の英霊を縛れたら良かったのに。
それが絶対に出来ないギルガメッシュだからこそ、私はここまで彼に焦がれ目の前の大きな背中に置いて行かれないようこれからも必死にもがき続けるのだろう。
ずっと前から明確になっていた答えを再度嚥下して、髪の上を滑る指に触れる。

「……髪を梳くの楽しい?」
「指通りだけは良いからな」

全く答えになってないなぁ。
でもギルの表情が柔らかくて、梳いてもらうのも気持ちがいいからまあ良いかな。

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極夜