ねた

▼2020/03/28:色よい返事だと嬉しいね

診断メーカー様より
マーリンSS

追記より


「少し付き合ってもらって構わないかな?……なんて問うまでもない事か」
要件を聞くより先に頷いた彼女にひっそりと、花の魔術師は苦笑いを零す。
そこが少女の美点の一つなんだけどね、という言葉は胸の内に落として先導する。

──向かった先は、人類悪との長くも苦しい死闘を繰り広げたバビロニアの地。
鼻奥を擽る木々の香りを胸いっぱいに吸い込み、頬を撫でる風に彼女は目を細めながら揺れる髪を押さえている。

「空に輝く星星はいつ、どんな時代も美しいけれどこの時代は遮蔽物がないから殊更美しいね。……おや」
「マーリンさん見ましたか!?流れ星ですよ!あ、また!」
あまり空を見続けていると、足元が疎かになるよ。と指摘をしようと思った矢先に目の前の小さな体がぐらりと傾いていくのが見えて咄嗟にほっそりとした腰に腕を回す。

「現代と違って道は舗装されていないし、今は夜だ。足元に十分気を付けるんだよマイロード」
「ごめんなさい。こんなに綺麗な星を見るのは初めてだったから、気持ちが昂ってたみたいです」
「それはよく伝わってきているよ。君の横顔を見て、ここへ招いて良かったと確信していたところだ」
何も聞かず、着の身着のまま来た彼女には些か今の気温は肌寒いだろう。
ぶるりと揺れる肩に手を伸ばし自身の真っ白いローブの中に引き寄せる。
目を細めて感謝の言葉を述べたが、すぐにあどけさの残る顔は月明かりでも分かるほどに赤に染まった。

「あ、あああの!少しばかり近すぎないかな!?」
しっかり抱き込まれてしまった少女は鼻に当たる固い胸板に手を置き、今でも何とか距離を置こうと格闘している。
燻りだした悪戯心には蓋をして、彼女をここに連れてきた一番の理由を成し遂げるべくマーリンは深く息を吸い込んだ。

「僕だけの、大切な人になってくれないだろうか」
胸元に置かれていた指を取って絡め、いつになく真剣な声色で紡がれた言葉。
菖蒲色の瞳はどこまでも真っ直ぐで、彼の今の言葉に嘘偽りはないのだと再認識させられる。

返事を待つマーリンの整った顔を凝視している彼女の知性は布越しに伝わる体温と、彼の言葉によってでろでろに溶かされ白になった脳は考える事を放棄してしまっていた。

Prev | Next

極夜